南御堂シアター原子力問題を考える公開講座

9/24(火)18:00〜20:00
誰かを犠牲にする原発〜「人間」として原子力問題を考える〜
京都大学原子炉実験所 小出裕章先生
〈エネルギーと人類の歴史〉
 700万年前に人間の祖が生まれ、20万年前に現生人類の祖が生まれ、10万年前に人類は他の生き物を狩猟するようになり、1万年前に農耕を始め、現在では電気を使い高層ビルを建てて生活している。
 エネルギーの消費総量は時代を追うごとに増えていく。特に産業革命以後は急激に増大する。それに伴い、生物種の絶滅が急増する。
 日本では1890年に平均寿命が43才だったが、その時の一人当たりのエネルギー供給量は1000Kcalちょっと。40000Kcalくらい使える頃に一番平均寿命が伸びた。それ以上はエネルギー供給量が増えても寿命は伸びない。むしろ石油ショックバブル崩壊で供給量が減った時に伸びている。
A)エネルギーが使えないと寿命が伸びない→エネルギー窮乏国家群
B)エネルギーをぜいたくに使ってもそれ以上寿命は伸びない→エネルギー浪費国家群
 Aの国々は今でも平均寿命が短い貧しい国で、有色人種の国だ。
 Bの国は豊かな白人の国々で、日本は例外的にこちらに入っている。
〈人類初の原爆〉
 1945年7月16日ポツダム会談の日に米国ニューメキシコ州の砂漠アラモゴルドにて最初の原爆トリニティ(三位一体)が炸裂した。
 もともと原爆はアインシュタインの建言などにより、ナチスに対抗するために作られたが、ナチスは5月に降伏した。しかし原爆は作られた。
原子力にかけた夢〉
 1954年7月2日の毎日新聞原子力によって夢のような未来がやってくるという論調。しかし当時の新聞は各紙全面的にこのようであった。化石燃料はいずれ尽きてしまうが、原子力は尽きることのないエネルギーであるかの宣伝がされた。しかし実際にはウランは化石燃料よりもずっと少ない原資であり、現在のペースで使い続ければ化石燃料よりも先に無くなってしまうことがわかっている。
 現在、海外のメディアからはなぜ日本は被爆国なのに原子力発電を受け入れるのかと聞かれるが、被爆国「なのに」ではなく、被爆国「だから」受け入れたのである。原子力の平和利用という言葉を本気で信じていたのである。
死の灰を生み出す機械〉
 広島原爆で燃やしたウランは800g。現在の原子力発電所一基が一年運転する毎に燃やすウランの重量は1トン。広島原爆の100倍以上の死の灰が一年でできる。計画の段階から無茶なものであったが、「事故は起こらないだろう」「僻地ならいいだろう」と実行した。
 福島の事故で4号基の原子炉建屋には広島原爆一万発以上の死の灰が使用済燃料プールに入っている。すぐ側には穴が開いており、余震なので壁が壊れれば外に漏れ出すかもしれない。いつ壊れるか分からない。「コントロール下」になど全然ない。
政府はIAEAに空気中にまき散らされたセシウム137が1号基で5.9×10の13乗ベクレル、2号基で1.4×10の16乗ベクレル、3号基で7.1×10の14乗ベクレル放出されたと報告している。これは広島原爆の168発分であるが、これは政府の発表であり、実態はもっと多いと考えられる。
 セシウム137汚染は偏西風に乗って世界中にばらまかれた。特にアメリカ西海岸のあたりはかなり汚染されている。
 放射能は風に乗って流れる。また雨や雪によって地表に落下する。原子力発電で何の恩恵も受けていない飯舘村は全村離村である。
放射能の基準〉
 一般の人     1ミリシーベルト/年
 放射能を扱う人 20ミリシーベルト/年
 これは法律で決まっている。また、放射線管理区域という放射能の実験などを行う場所以外では放射能を扱ってはならないことになっており、そこからは4万ベクレルを下回らないと人も機材も区域の外には出してはならないことになっており、法律で定められている。ちなみに東北の多くの地域、北関東の一部は4万ベクレルを大きく超えている場所がたくさんあり、放射線管理区域に指定されるべき場所であるが、国は法律を反故にして、人々を住まわせ、一般の人々の被曝基準を「20ミリシーベルト/年」まで上げてしまった。
 ICRP−2007年勧告によれば、100ミリシーベルトでは癌の危険性があり、100ミリシーベルト以下でも癌の危険はあり、被曝量の多さに比例して危険性は高まると警告しているが、日本政府はあたかも100ミリシーベルト被曝しても健康に被害はないかのような宣言をしている。
〈子どもたちの被曝〉
 被曝と癌の発生に関しては、30才くらいが被曝量と癌の発生件数が同じくらい(つまり被曝していてもしていなくても癌にかかる確率が同じくらい)で、年齢が上昇するごとに被曝と癌の関係は希薄になる。癌の発生と被曝の関係は低年齢層ほど深刻で、乳幼児の危険性は非常に高い。すぐにでも避難させるべきである。
〈事故が無くても悲惨な原子力
 原子力発電は年間70億Kwhの電気を生み出す。しかしそのためにウランの採石、精製、濃縮が行われ、その各過程で被曝とコストが生まれる。また使用後には使用済燃料が生まれ、再処理(再処理とは廃棄物をなくす技術ではない)によってプルトニウムを取り出した後に廃棄物が生まれ、その各過程でも被曝とコストが生まれ、残った放射廃棄物を最終処理する方法がないという、非常に高コストのシステムである。
 日本では1970年台から動かしてきた原発により、大量の低レベル放射性廃棄物と高レベル放射性廃棄物がもうどうしようもないくらい溜まっている。
 宇宙処分は技術的に無理と判断され、海洋処分はロンドン条約で禁止され、氷床処分は南極条約で禁止され、地層処分しか残されていない。低レベル放射性廃棄物はドラム缶に詰めて六ヶ所村に埋めることになっているが、ドラム缶が腐敗して漏れた水を300年間監視するそうだが、そんなことができるのか?
〈企業の寿命〉
1966年日本が原子力発電を動かし始めて  47年
1951年現在の9電力会社の設立から    62年
1886年日本初の電力会社が出来て    127年
低レベル放射性廃棄物のお守り       300年
〈国家の寿命〉
1868年明治維新から        145年
1776年米国合衆国建国から     237年
邪馬台国から            1800年
神武天皇建国から          2673年
高レベル放射性廃棄物のお守り 1000000年

〈他者の犠牲を前提にする原子力
平常運転時に誰も被曝したくないので、企業は次々と下請け業者に作業をさせ、10次受けとも言われる状況。
 事故時にも当然作業は下請け、現地の住民が犠牲になる。
 廃棄物処理は子々孫々まで押しつける。