〈ひと〉の現象学

<ひと>の現象学

<ひと>の現象学

 鷲田清一のさまざまな論考をまとめた論集。鷲田の思想は「あたりまえ」と思っていることを考え直させてくれる。表に見えているものの裏を見るだけではなく、裏と表が実は同一であることを気づかせてくれる。両極端が同一のものになってしまう。多様性を求めて推し進めることが一元化を進めることになったり、意味を追及して無意味になってしまったりと。こういうすべてがばらばらになってしまうような場所で思考し続けるのはつらいことだろうなと思う。あるいは面白いことか。何か一つのことを信じてそれを柱に生きる方がまだ生きやすい。いや、信じ続けるのはそれで難しいものだ。次々と信じるものを取り替えていくなら楽だろうけれど。何もかも相対化して解体してしまって、それでも拠り所とできるものは何だろうか。シーソーの上でバランスを取るようにして特に何も信じずどこにも立たず中庸を心がけて生きていくのだろうか。このような時代にあっては不安をあおられると一気に極端に走りそうで怖い。