絵がきれい


 ストーリーは原作の「グスコーブドリの伝記」と、その元の作と言われている「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」が混じっている上に、全体は「雨ニモマケズ」の精神で貫かれ、ブドリの妹ネリが賢治の妹トシに見立てられているようです。原作ではネリは農夫と結婚してすっかり農家のおかみさんになり、子どもも産まれて幸せに暮らしています。ブドリとも再会を果たすのです。映画では「あちらがわ」の世界に行ってしまい、カムパネルラを思わせるところです。
 途中で「銀河ステーション」が出てきますが、これは「グスコーブドリの伝記」にはない記述で、画面は前作映画『銀河鉄道の夜』の白鳥の駅と似ています。列車の中でばけものがうろうろして、「ギルちゃん青くてすきとおるようだったと」などの語りが重ねられますが、これは詩集『春と修羅』の「青森挽歌」の一節。妹トシを亡くした賢治が失意の旅行をした時に、列車の窓に「あの世」のような風景が映り、様々な幻覚が見える様子を描いた長編の詩です。映画の監修は天沢退二郎です。この方は詩人で宮沢賢治研究の第一人者です。世に出ている宮沢賢治作品の大概のものは天沢氏が編集したものです。宮沢賢治作品はほとんど原稿がバラバラでしたから。
 このばけもののモチーフは、「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」から。裁判の場面と、「出現罪」の話もこちらからです。二つをよく読んでいると、映画がわかりやすくなります。
 あちこちに前作映画『銀河鉄道の夜』ファンへのサービスがあるのですが、一番わかりやすいのは、盲目の電信技師です。街でブドリがすれ違います。この電信技師は賢治の『銀河鉄道の夜』にも登場しない、映画のオリジナルキャラクターです。
 画面もきれいで、音楽もいいし、なかなかいい映画でした。