名門校とは何か?

名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件 (朝日新書)

名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件 (朝日新書)

 はじめに東大をはじめとする旧帝大の合格ランキング表などがついているので、偏差値という側面の学力を重視している本なのかと思ってしまうが、そうではない。取材したどの学校に関してもそうだが、結果は後からついてきたものであるというスタンスの学校が多い。ただ世間に認められるため、優秀な力をもった生徒を集めるため、進学実績という要因を無視することはできない現実を避けて通らずに語っているところはバランスがよいと思う。
 本書がすぐれている点は各学校を羅列してその良さを描くだけでなく、近代教育制度の変遷の上に今ある学校がどういう必然によって生まれてきたかを作者なりの視点でまとめているところである。さまざまな時期に学校設立は行われており、それぞれ系譜が存在している。それらをカテゴリーごとに分類していてわかりやすい。さらにそこにとどまらず、近代の幕開けにあたって日本がお手本としたイギリスの名門校についての研究を最終章に持ってきているところである。まさに題名にあるごとく「名門校とは何か?」を追究した本であると言える。したがって単に特定の名門校を詳しく知りたいというだけの読者にはおすすめしない。各校の紹介はむしろ淡泊であり、焦点はなぜその学校が名門校なのかということなのだ。だからむしろ各校の歴史の中で浮沈した学校に対して紙幅が割かれている。どうして名門校と呼ばれるようになったか、名門と呼ばれていた学校が一度落ち込み、また浮かび上がってきたのはなぜか?どういう改革がされたのか?その辺に力点が置かれていて興味深い。共通して言えることは、その時々に中興の祖とでも言いたいような人物が現れてくることだ。そしてそういう人物の改革の多くは建学の精神に立ち戻るということだ。といっても後ろ向きに昔の価値観を持ち出すのではなく、新しいことをするために原点に立ち戻るのである。これは伝統のある学校ほどかえって難しいことであったりする。伝統の中で何が変えるべきことで、何が変えてはいけないことなのかを判断する客観的な指標というのは存在しないからである。そして一度流れを断ち切ってしまえば取り戻せない、そういう気持ちもあって何も変えられないということは伝統校にありがちだ。本書では改革者たちの苦しみについては書かず、成功した事例として取り上げているだけだが、裏には多くの苦渋の決断と、卒業生も含めた周囲を説得する粘り強い交渉があったものと思われる。そういう意味では現在残っている名門校とは、変わり続ける勇気を持った学校たちともいえるようだ。