さよなら、愛しい人

さよなら、愛しい人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

さよなら、愛しい人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 レイモンド・チャンドラーフィリップ・マーロウもののシリーズ。村上春樹訳の文庫が出たので読む。
 これぞ小説という感じの臨場感がたまらなく好きだ。ぐいぐいと作品に引き込まれていくのは村上春樹の手腕によるのか、原作がいいのか。たぶん両方なんだろう。結構登場人物が多い。一見つながりのない事件が大きな事件につながっている。マーロウがどこまで先読みをして事件に関わっているのか読者にもなかなかわからない。ただ事件に巻き込まれているだけのようにも見える。
 いつも貧乏くじを引き続けるマーロウだが、今回はかなりひどい目に遭っている。大物に目をつけられ、警告のために麻薬をさんざん注射され、廃人のようにされて隔離病棟に閉じ込められた。しかしマーロウは思う「私はタフだ。なんとしてもここから出てやる」と。病室を歩いて歩いて麻薬を体から抜き、牢番を叩きのめし、脱出する。
 マーロウがどの時点で真犯人を確信しているのかなかなかわかりにくい。後の話からは物語の前半部分では分かっていたような感じだ。それにしてもマーロウの度胸のよさとタフさも格好いいが、協力する周囲の人物たちもそれぞれに格好いい。市を仕切っている大物もさすがに大物だけあって話がわかる。でも一歩でも下手をすれば殺されかねない。マーロウの半分はったりのような度胸にも、あの緊張感に満ちたやりとりが読んでいてどきどきした。