かわいい女
- 作者: レイモンド・チャンドラー,清水俊二
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1959/06/01
- メディア: 文庫
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そういえば、僕が村上春樹の作品が好きだというと村上春樹はアメリカ文学を焼き直しただけではないかと言われたことがある。表面的にはそういう部分はあるかもしれない。しかしその「焼き直しただけ」にしてもそう簡単にできるものではない。村上春樹の異世界に繋がってしまう感じはチャンドラーにはない。チャンドラーの小説はどこまでもリアリズムだ。この異世界に繋がってしまう感じはむしろユングの著書に出てくる夢やイメージの世界に近い。そういうと、村上春樹は先人の様々な作品や思想をパッチワークしただけなのかと言われそうだが、時代の影響や読んだ本や聞いた音楽、触れた芸術に影響されないということはないだろうし、自身に消化し、オリジナルな作品として構成するのは並大抵の能力ではできないはずだ。ユングについていえば、村上春樹がユングを読み込んでいるということではない。むしろ村上春樹はユングに似すぎている。あるいは河合隼雄が言うような「語り手」なのだ。ユングの理論は跡づけである。幼少年期から白昼夢や恐ろしい夢を見続けたことはユングの天稟である。そうであるならば、村上春樹が自らユングがいうところの集合的無意識にたどり着いたとしてもおかしくはない。実際優れた作家やある種の神秘主義者などはその泉から酌み取っているのだろうから。