私の「漱石」と「龍之介」

 内田百�瑶の文章はやはり師の夏目漱石を思わせる飄逸なところがあって好きです。しかし漱石のような鋭角に切るような批評性はないので、「実益がない」(これは友人から百�瑶が言われた言葉)と評されるのもやむを得ない気がします。
 漱石のファンは今でもたくさんいると思いますが、まさに現代的なファンの感覚で百�瑶が漱石の真似をしたり(笑い方まで真似したらいい)、もっている机を真似て家に同じような机を誂えたりするエピソードにはほほえましいものを感じます。
 文章が生き生きと活写するように書かれていて、漱石の人となりや、「木曜会」での弟子達の様子がおもしろおかしく描かれていて資料としても貴重だと思います。百�瑶はあまり心象風景のような描写は少ないし、内面をくどくど述べることもしません。ただ実際の様子が手に取るように伝わります。
 漱石のエピソードはそうは言っても今や有名なものが多く、目新しさはありませんでしたが、芥川龍之介と百�瑶がこんなにも仲良しだとは知りませんでした。感情をくどくど書かない百�瑶ですが、芥川の死に関して行間からあふれるほどの無念さと周囲のゴシップ的な扱いに対する怒りが感じられます。