フェルメール全点踏破の旅

フェルメール全点踏破の旅 (集英社新書ヴィジュアル版)

フェルメール全点踏破の旅 (集英社新書ヴィジュアル版)

 フェルメールの絵を全点旅行して観て廻るという面白い企画を一冊の本にまとめたものです。フェルメールの絵は真贋の怪しいものを含めても37枚しかないので、こういう企画も可能なのでしょう。
 筆者は美術の専門家というわけではなく、しかしまったく素人というわけでもなく適切な解説と、未だに謎になっている部分への自由な想像力で絵の背景やフェルメールの人生を描き出しています。ミステリー小説を読んでいるようなおもしろさもあり、特別に絵に興味のない人でも楽しめそうです。
 筆者のフェルメールの絵への関心は、フェルメールの絵には宗教的な寓意は少ないのに、崇高な感じを受けるのはなぜかということでした。フェルメールは当時の風俗画の画家達の約束事をある程度守りながら、逸脱しているところもあり、そこが魅力になっているようです。宗教革命によってプロテスタン国となったオランダではカトリックの信仰は認められませんでしたが、フェルメールカトリックだったのではないかという話もあるようです。そうしたフェルメールの宗教心が風俗画の日常的な女性の立ち姿などに何か厳粛な感覚を与えているのではないかと筆者は推測しています。