大人のいない国

 内田樹鷲田清一の対談集です。テンポ良くすぐに読めてしまう本ですが、時々引っかかって考え込まされる、そんな本です。政治家も企業のお偉方も未熟な言辞を弄し、それでも一応世界の大国としてやっていけている日本。それはシステムがきちんと働いているからだ。しかしいつかシステムそのものに不具合がやってきた時に、いったいどうなるんだろう?
 本書を読みながら、斉藤環が指摘している「ヤンキー化」と同じ現象を扱っているなと思いました。本書では、中国からの挑発的な行為に対して「どうしてもっと怒らないんだ」と怒鳴る議員がいて、結局当時の官房長官が「私も怒っています」と答弁させられたという話を挙げている。政治の舞台ではどこかで妥協点を探していくのが常識で、それが大人の作法なのだが、自分の意見を曲げず、大声を上げて自説を主張し続けるのが愛国的な態度だとされている。これは子どもがだだをこねているのと同じである、と。まさにその通りです。
 自分と同質のもの以外とはつきあえない。少しでも違うとなると切り捨ててしまう。妥協ができない。話し合いもできない。一方的なクレームをつけるだけになってしまう。自分も現状を変えていく一員になれず、ひたすらサービスを受ける側に徹してしまう。息の長い交渉などはできない。この感覚は、理屈抜きの「気合い」で何でも乗り切れるはずだというヤンキー精神そのものだ。
 本書は軽い読み物だが、内容は深く重い。