女のいない男たち

女のいない男たち

女のいない男たち

 個人的には村上春樹は長編の方が好きで、特に『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』が作品の完成度からいっても、内容のクールさからいっても最高だと思います。短編は全体的に抽象絵画のようでつかみ所がなく、長編作品に結実する前の実験的な素材のようなものが多いという印象です。
 さて、今回の『女のいない男たち』ですが、短編小説にしては意外にもストーリーがしっかりとしていて長編に飛躍できるような可能性を秘めているように思いました。特に「木野」なんかは、長編小説のプロローグのようです。村上春樹は様々な実験をしているようです。「独立器官」は作者が語り手としての意識をはっきり持ちつつ、読者に報告する形で語っています。昔の小説は徹底的に「僕」という一人称の語り進んでいましたが、三人称による小説の形や、「僕」や「私」が語り手となって他の人を語ったりする形など様々なフレームでの語りを実験しているようです。『1Q84』は青豆と天吾という三人称の語りでしたが、途中に牛河の語りになったり様々な語り手が物語を紡いでいって面白かったのを覚えています。村上春樹は今後何作長編小説を書けるでしょうか。これからも楽しみにしたいと思います。