食の戦争

食の戦争 米国の罠に落ちる日本 (文春新書)

食の戦争 米国の罠に落ちる日本 (文春新書)

 「ここに、アメリカがいかに食糧政策において戦略的かということを物語るエピソードがある。アメリカの食料戦略の一番の標的は、日本だとも言われてきた。アメリカのウィスコンシン大学の教授は、農家の子弟向けの授業で、『君たちはアメリカの威信を担っている。アメリカの農産物は政治上の武器だ。だから安くて品質のよいものをたくさんつくりなさい。それが世界をコントロールする道具になる。たとえば東の海の上に浮かんだ小さな国はよく動く。でも、勝手に動かれては不都合だから、その行き先をfeed(食料)で引っ張れ』と言ったと紹介されている。これがアメリカにとっての食糧政策の立ち位置なのだということを我々は認識しなくてはならない。」
 本書では上記のようなアメリカの戦略的な食糧政策について詳しく語っているが、読めば読むほど日本の国民には大切なことは何も知らされないままに話が進んでいるのだなと驚かされる。それはアメリカの国内においても同様で、筆者は指摘しているが、1%の富裕層がさらに裕福になるためのシステムが着々と作られており、99%の国民は貧しくなる一方なのである。
 2008年に世界的な食糧危機が起き、小麦やトウモロコシが高騰しコメ価格が上昇するのを懸念したコメの生産輸出国が、コメの輸出規制を行い、コメを主食とするハイチやフィリピンではお金を出してもコメが買えず、ハイチでは餓死者も出た。その背景として、ハイチではIMFの融資条件として1995年にアメリカからコメ関税の3%までの引き下げを約束させられ、国内のコメ生産が大幅に減少し、コメ輸入に頼る構造になっていたのである。そもそもコメに注目が集まったのはトウモロコシの価格高騰が原因だが、その多くは投機マネーや輸出規制によるバブルが原因であった。価格高騰が起きた原因はさらにアメリカのバイオ燃料政策にもある。国際的なテロ事件などを受けて高騰していた中東の原油への依存を低下させて、エネルギー自給率を上げるという名目でトウモロコシのバイオ燃料推進政策を進めた。メキシコはトウモロコシ価格の高騰で暴動が起こった。メキシコはNAFTA(北米自由貿易協定)によってトウモロコシの関税を撤廃したので、アメリカからの輸入が増大し、国内生産が激減してしまったところに価格暴騰が起こったため、このような事態になったのである。
 もう一つあまり日本では報道されていない、遺伝子組み換え食品についての話題。1997年当時の種子会社の売上世界ランキングは、1位から10位まで種苗会社で占められていたが、2009年には1位がモンサントで世界の27%の市場占有率を誇る世界一の種子会社となった。モンサントは除草剤の会社であある。モンサント社が開発した遺伝子組み換えの除草剤耐性大豆は、モンサントの除草剤とセットで販売される。モンサントは通称「モンサントポリス」と呼ばれる監視員を派遣して、モンサント社の遺伝子組み換え大豆の二代目を作っていないか監視している。もし契約農家が二代目を作っていれば、特許侵害の訴訟を起こし、莫大な賠償金を請求するのである。したがって契約農家は毎年モンサントから種子と除草剤を買わなくてはならない。2013年3月には「包括予算割当法」が成立した。これは通称「モンサント保護法」と呼ばれ、第735条に「モンサント社などが販売する遺伝子組換え作物で消費者に健康被害が出ても、因果関係が証明されない限り種子の販売や植栽を法的に停止させることができない」となっている。法案撤回を求めるオバマ大統領への請願書に25万以上の署名が寄せられたという。NAFTAでメキシコが追い込まれたのと同じことは、TPPによって日本にも起こってくると筆者は警告を発している。
 日本の農業は過剰に保護されており、農業の自由化、競争導入を図るべきだというのはよく政府が口にしていることだが、実際にはアメリカやEUでは日本以上に農業などの第一次産業にお金をつぎ込んでおり、保護している。なぜこのようなことが起こっているのか、またなぜ日本の農業は過保護であると言われているのか、見かけの数字と実質の数字を挙げながら説明している。これは実際に表を見てもらう方が早い。日本政府はアメリカに国を売ろうとしているのかと疑いたくなるような話が次々と出てきて読んでいて腹が立ってくる。TPP交渉の中身が不透明なまま日本は参加しているが、それも、アメリカは韓米FTAを見ればTPPの中身は分かるから、それを見てくれと2年も前に言われているのに、日本政府が意図的に韓米FTAに関して箝口令を敷いたために伝わってこなかったのである。ちなみに韓国もFTAの中身を極秘のまま批准しようとして、直前に公表した結果、国会に催涙弾を投げ込まれて与党単独で強行採決したのである。韓米FTAにはTPPで問題となっている条項がすべて含まれており、これが国民の公表されていたら、TPPに参加するという人はいなかっただろう。そこで政府はひた隠しにし、にっちもさっちもいかなくなってから公表するつもりだったようだ。
 こうして見てくると日本という国は独立国家とはとうてい呼べないと暗澹とした気持ちになってきます。