陰翳礼讃
- 作者: 谷崎潤一郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1995/09/18
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日本ではどうして陰翳が尊ばれるのかを日本人の肌の色に帰しているのは面白い。西洋人の肌は白い。西洋にも近代以前薄暗い時代もあっただろうに、日本のように陰翳の文化は発達しなかった。
最後は日本には無駄に電灯が多すぎるという話が続く。寺に行っても明かりで彩られていて(今ならライトアップというところだ)、行くのをやめてしまった話などが書かれている。道にも信号の明かりが点って進めだの止まれだの明滅しているのは、老人には緊張する。西洋化していくのに老人はついていけないがこれも時代の流れだろうと諦めた口調で締めくくっている。
この文を読んでいると昭和初期に書かれたとは思えない新しさがある。特に後半の若干老人の愚痴めいた部分などはそのまま現代文明批判として通用する。「陰翳礼讃」も3・11以来の節電の文脈でよく引用されていたので読んだのである。谷崎の文章は美しい。こういう美しさは生活から生まれてくるものだ。村上春樹が書いていたが、本物の芸術は芸術のことだけしか考えなくていい、奴隷制がなければ成り立たない、夜中の2時に冷蔵庫を漁る人間にはそういう文章しか書けないと確か『風の歌を聴け』(デビュー作だ)で書いていたが、どういう環境で生きてきたかはどういう文章を書くかに避けがたい影響を与えることだろう。今の日本でこういう美しい文章が書ける作家はもう生まれてこないのかもしれない。