差別なくならないな。

橋下徹現象と部落差別 (モナド新書 6)

橋下徹現象と部落差別 (モナド新書 6)

従軍慰安婦発言ですっかり評判を落とした橋下徹氏ですが、本書は飛ぶ鳥も落とす勢いだった、大阪府知事から大阪市長への鞍替え選挙で圧勝した時のお話です。しかも橋下氏の政治手法や内容についての批判ではなく、大阪市長選挙で橋下氏に行われたネガティブキャンペーンへの批判です。筆者の宮崎学小林健治は被差別部落問題にも部落解放同盟にも深く関わりのある人物で、政治的には橋下徹を批判する立場を取っています。しかしこの橋下氏を部落民として貶めるやり方は差別であり、橋下氏の反撃は正しかったという立場で本書は構成されています。本書は宮崎、小林両氏の対談形式で進んでいくので、さらっと読めますが内容はなかなか深いです。
 『週刊朝日』連載「ハシシタ 奴の本性」がいかに差別性に満ちているから、またそれが府市ダブル選挙のさいに『新潮45』『週刊新潮』『週刊文春』ですでに書かれている内容の二番煎じに過ぎないかを浮き彫りにした後、『新潮45』では上原善広被差別部落出身のライターということを「免罪符」として差別記事を書かせている問題性、『週刊朝日』では佐野眞一という大物ノンフィクション作家を「弾除け」に使っている問題性を明らかにします。
 また橋下氏の追及が的を射ていることと、朝日の「お詫び」がお詫びになっておらず、差別の本質がかわっていないことを明らかにします。変えようのない選びようのない血筋を根拠にして人格を否定するような報道は差別であると橋下氏がはっきり言っていることを筆者は高く評価しています。多くのいわゆる「知識人」「有識者」と呼ばれる人々が橋下氏の朝日批判を過剰反応などとして批判しているのは的外れであり、橋下氏の政治手法への批判などとごちゃごちゃになっているとしています。
 また本来、差別されている橋下氏を擁護する立場にいるべき部落解放同盟が橋下氏の側にきちんと立てなかったことを鋭く批判しています。そこにはおそらく市長選前ということも絡んでおり政治的には利害の対立する橋下氏の側に立てなかったという事情もあるかもしれないとしながらも、水平社設立の主旨から言っても、橋下氏を擁護できなかった解放同盟はその存在意義から非常に問題が多いとしています。その上で、これだけのネガティブキャンペーンを展開されながら、差別をはねのけた橋下氏(筆者は「ひとり解放同盟」と言っている)と票を入れた大阪市民の感覚に敬意を払っています。この差別事件は結果的には橋下氏圧勝への道を用意するものとなったわけです。