いきだね。

九鬼周造随筆集 (岩波文庫)

九鬼周造随筆集 (岩波文庫)

 『「いき」の構造』で有名な九鬼周造の随筆集です。さまざまなテーマについて書かれていてとても面白いです。戦前のインテリは違うなと思わされます。面白かったものを紹介します。「外来語所感」という章があり、最近日本語に外来語が増えていると批判的に書いています。昭和4年に帰朝したら日本に外国語が氾濫していて驚いたという話です。最近名古屋だったと思いますが、NHKが訴えられた事件がありました。外来語が多すぎて意味が分からなくて苦痛だと言う話でした。九鬼が言っていたことは全然改善はされていないようです。
 九鬼は昔の日本人が外来語を何とか日本語に翻訳して使っていたことを評価しています。外国語をよく理解していた本当のインテリが言う言葉だけに重みがあります。外国語を身につけていない人が外来語を使いたがる。本当の意味をきちんと分かっている人からみれば、忌々しいことでしょう。パリ留学中に最も日本的な概念である「いき」などについて研究している人だけのことはあります。
 思うに、外来語がそのままの形で受容されるようになった背景は、日本人が外国語をよく習得するようになったからではなく、日本人の日本語力とくにその漢語の能力が低下したからです。明治の知識人が外国語を漢語に翻訳できたのは、当時の知識人は漢詩をすらすら作れるくらいの能力があったからです。大正時代ぐらいになるともうその能力は衰退してしまいます。それでも戦前まではまだマシだったと思うのですが、戦後の漢字能力の低下は恐ろしいものがあります。それに平行して英語力がかつての漢語力並みに高まったかというとそんなことはありません。
 最近は英語は陳腐になったようで、フランス語がよく現れています。でも意味を分かって使っている人がどれくらいいるのだろう。日本語の達人であり、フランスに留学しているホンモノから、指摘されると本当に恥ずかしくなる現在の日本人だと思います。