境界を生きる

境界を生きる 性と生のはざまで

境界を生きる 性と生のはざまで

 本書は毎日新聞に連載されていた「境界を生きる」シリーズが本になったものです。性分化疾患(DSD):かつては「半陰陽」「両性具有」などと呼ばれてきたが、差別的な響きがあるということで、現在は性分化疾患で統一されています。インターセックスとも。Disorder of Sex Development. 性同一性障害GID):身体と心の性が一致しない状態。Gender Identity Disorder.以下、本書の目次を挙げてみます。それだけで分かることがあります。
1章 性分化疾患
・性を選ぶ苦悩
・医療の現場で
・事実を知るとき
2章 性同一性障害
・学校というハードル
・親子の距離
・待てない子どもたち
・カミングアウト
3章 性と生のはざまで
・結婚、子育て、夢は……
・働きたい
・戸籍の「壁」
・先進国・カナダで
・生きよう!
・自分らしさ、求めて
 本書を読んでいて思うのは、「性」と「生」がほとんど同義だということです。本書には何度か自殺未遂の話や実際に自殺してしまった人の話や自殺して子を亡くした親の話などが出てきます。自分の「性」への違和感はそのまま生きることへの違和感に直結してしまうのです。知らなかったことも多く、その一つとしては事例の多さです。この問題が特殊なマイノリティの話ではないと思いました。新生児が男か女か判断しがたい状態で生まれてくることが結構多く、多くの場合はどちらかに決めて手術をしたりしています。しかしそれが後から心の性(脳の性)との不一致という状態で現れてしまったりしているのです。法律の壁もあり、性をどちらかに決めなければならない現実があります。
 学校の話は読んでいてつらいものがありました。女子校に通っている、実は男性であることがわかってきた生徒の話や、途中で性別を変えることを決めた児童の話など。学校の受け入れの苦しみ、保護者の学校への不満、いつそういうことが起こってもおかしくないと思います。
 結構苦しい内容が続く本書ですが、先進国のカナダの取り組みには少しだけ明るい希望を感じます。他校でいじめにあったマイノリティばかりを集めている学校があり、教師もマイノリティで、生徒の状況に理解を示して教育が行われます。社会の成熟度の差を感じます。
 それにしても知らないということは罪だなと改めて思わされました。