フランクル心理学入門

フランクル心理学入門―どんな時も人生には意味がある

フランクル心理学入門―どんな時も人生には意味がある

 本書は諸富祥彦氏による、フランクル心理学の入門書です。本書の面白さは筆者がフランクルに大変強い思い入れを思っていながらも、フランクル個人とフランクルの学問を峻別してとらえており、フランクルの晩年フランクル心理学が世間に求められだしてからのフランクルのあり方に痛烈な批判を加えていることです。フランクルの心理学は本質を見誤って伝えられている、にもかかわらずフランクルは自分の学問が多くの人に認められたことに満足している、それは学者として「堕落」であると言います。ここまで筆者が言い切るのは、それだけフランクル心理学を高く評価しているからです。
 本書は5部構成となっていて、第1部はフランクルの生涯、第2部はフランクル心理学の中身を考察しながら、さまざまなケースにおけるフランクル心理学の摘要を考えていきます。第3部では、第2部のような個別具体的な説明から、もっと原理的な説明に入っていきます。一番核心の部分です。第4部ではカウンセリング・臨床の実際を紹介していきます。特にフランクル心理学の特徴である「ロゴ・セラピー」について、技法も含めた原理を説明していきます。第5部では筆者によるフランクルの主要著作の紹介です。これは一般読者から初級研究者までを視野に入れていると思います。そして最後に現在のフランクル心理学の到達点、筆者の修正フランクル心理学の説明を加えてあります。
 本書を読んでいて、なるほどと思ったことがたくさんありました。『夜と霧』があまりにも有名なためフランクルが優れたカウンセラーであることがあまり話題にされないということ。しかもその基本原理「ロゴ・セラピー」は強制収容所の体験によって生まれたものではなく、収容所に行く前にほぼ完成していたということです。「お話」としては、強制収容所で劇的な体験をし、その体験から導き出された技法である方が面白いと思うのですが、フランクル自身は強制収容所の前と後とで学問に関しては変わっていないということです。かなり多くの人が誤解をしていると筆者は指摘しています。辞典や、翻訳者の序文などにも間違いがあり、筆者は一つ一つ挙げて批判しています。あまりにも有名になりすぎると他の部分にひずみが生まれてしまうのだなと思わされました。