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高校で学ぶ発達障がいのある生徒のため 共感からはじまる「わかる」授業づくり

高校で学ぶ発達障がいのある生徒のため 共感からはじまる「わかる」授業づくり

 大阪府教育委員会が編集している、「高校で学ぶ発達障がいのある生徒のための」というシリーズ。発達障がいの概略は簡単に触れてあるだけですが、基本的に教員が現場で使えるノウハウを提供しているので、医学的な説明などを詳細に書いているわけではありません。ただ、この本に書いてあることを形だけ実践しても(それも大変なことだが)、うまくいかないだろう。「共感からはじまる」と書名にうたっているのは、その部分で、「共感」ができる人はこのようなノウハウは知っていればなお好いが、知らなくても何とかなるものであり、「共感」の部分がうまくいかない人は、どんなノウハウを身につけてもまあうまくいかない。
 本書の最後には個別の指導計画や報告書の形式がプリントの形で載っている。そのままコピーして使えるということだと思う。こういうものも、自分で作っていくことができる人はうまく使えるだろうけれど、わけもわからずに形式に載ってしまうと、肝心の部分がぬけたりするので要注意だ。便利になり、わかりやすくなるのはいいことだ、たぶん。でもどうしても一から作った人のレベルには達することができない。さらに、うまく使っている人に「講義」を受けたりして「使い方」を教えてもらったりすると、うまく使っている人のレベルに達することはできない。
 どのような事柄でも、一番肝心のところは、誰かに教えてもらうことはできない。自分で身につけなくてはいけない。発達障がいに限らず、人間関係に関することは、「共感」が基本だというのは間違いない。しかしそれを教えてもらうことはできない。これも何でもそうだけれど、まず「型」から入るしかない。そのうちに「精神」に達することもある。それは言いかえると「やってみる」ということだ。失敗のないところに成長はない。残念ながら今の時代は失敗が許されない雰囲気がある。こういう本を読んで、失敗しないようにうまくやろうと考える人は、まずうまくいかないし、肝心なところがわからないままだろう。兼好法師も「能をつかんとする人」の段で失敗を恐れるな、恥をかくことを恐れるなと言っている。