文明批評として
- 作者: 村上龍
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 1998/04/01
- メディア: 文庫
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前作では別世界(つまり私たちの生活している平和でアメリカナイズされた日本)から迷い込んで男が、あったかもしれない日本の姿にだんだん惹かれていく姿を描いています。最後にこの男がどうなったのかは書かれていませんが、元の世界に帰らずにこの世界に留まったような暗示で終わっています。
今回の作品はUGに関心を持っているCNNの女性ジャーナリストが偶然UGのミッシュンに同行することになるというストーリーです。前回も今回も、UG兵士は必要なことは話さないし、心理的な内面分析もありません。あくまで他文化に属する人間がUGをどのように観察したかという視点で描かれています。そこには現代日本人に対する滑稽なくらいの批判が込められています。敵国アメリカの言語である英語を、イギリス人以上に上手に話す日本人。高度な教養、専門知識、鍛え上げられた肉体、決断力・行動力……。
UGに国連から依頼されたミッションは、ヒューガ村を殲滅すること。はじめはビックバンと呼ばれる金持ちの医療・リゾート施設から要人を救出することでしたが、正体不明のウイルスの爆発的な広がりにより、そのウイルスが生まれたとされるヒューガ村を殲滅することが目的とされました。
作中にはウイルスに関する専門用語がたくさん出てきて、作品にリアリティを与えています。作者自身のあとがきに、様々な専門家への謝辞が書かれています。さらに京都大学ウイルス研究所所長の畑中正一氏の詳細な(いささか専門的すぎる)解説が書かれています。
章立てを見れば分かるように、UGがウイルスを殲滅すべく日本国土という体内を巡るワクチン(むしろキラー細胞か?)のように進んでいくという構成になっています。物語は前作と同じく、結末までは語りません。UGに同行していたCNNの記者は自らがヒューガ・ウイルスに感染してしまい、「圧倒的な危機感をエネルギーに変える作業を日常的にしてきたか、を試されています」(それだけがウイルスに対抗する手段なのです)。UGはヒューガ村を殲滅に向かいましたが、どうやらウイルスはもう世界に広まってしまったようです。世界は破滅してしまうのか、UGが研究しているウイルスへの対抗薬が完成するのか。それらは描かれていません。