もはやねたましいか?

小澤征爾さんと、音楽について話をする

小澤征爾さんと、音楽について話をする

 面白い!見た目は厚めの本ですが、本当にすぐに読み終わってしまいました。対談集だからということもありますが、とにかく面白いのです。
 村上春樹というとジャズのイメージですが、クラシックに詳しいこと、驚くべき情報量です。小澤征爾が「あとがき」で、「正気の範囲を超えている」と評するだけのことはあります。小澤征爾と一緒にレコードの聞き比べをしながら、指揮者や演奏者やオーケストラのことを話している下りなど、二人とも本当に楽しそうですし、音楽を聴くってこういうことなんだと感動させられます。村上春樹がよい聞き手だからでしょう、小澤征爾の思い出話が次々と出てきます。カラヤンバーンスタインの話は本当に興味深いですし、おそらく私自身が持っている数少ないクラシックCDからでも、二人の話していることのイメージは浮かんできて、なるほどなあと納得させられたりしました。
 本書は全部で六回の小澤征爾村上春樹の対談からなっていて、間に村上春樹によるコラムが挟まれています。最後の対談の前に少し長めの文章があって、これは村上春樹小澤征爾主催の音楽塾にゲストとして招かれて一緒に過ごした経験が語られています。二人がレコードを聞きながら話をする前半と、作曲家やオペラについて話をする後半と、それぞれに新鮮で、興味深いです。音楽について語っているのに、それは生きることそのものについて語っているような感じがしてきます。そしてそれはたぶんそんなに外れてはいないのだろうと思います。いずれにしても、うらやましいというか、ほとんどねたましいような気分で読み、もっと音楽が好きになりました。