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しつけ―親子がしあわせになるために

しつけ―親子がしあわせになるために

 クローズアップ現代で「やさしい虐待」と題して、長谷川博一氏が紹介されていました。子どもの不登校や問題行動に悩む母親のカウンセリングを取り上げているのですが、長谷川氏の手法が独特なのは、母親自身が受けてきたしつけにまでさかのぼって、子どものころに親にされたことが嫌だったのだということを洞察させるというところにあります。真面目で、きちんとしたしつけをし、周囲からも「しつけの行き届いたいいお子さんですね」と言われる子育てをしてきたのに、ある日急に子どもが学校に行かなくなったり、手のつけられない問題行動を起こしたり、引きこもりになってしまったりして、途方に暮れる。そういう親が増えているというのです。
 本書は2002年に出版されており、もう10年も前の本で、90年代の凶悪少年事件などを話題にしています。しかしその内容は古びるどころか、ますます新しくなっていると思います。これは残念ながらというべきです。実際、この本を読んで、自分のしつけ観を変えることができた人は、かなり楽になると思います。ただ変えるのは容易ではないかもしれませんが。
 筆者の指摘で、少子化の現在は、大人の目が子どもに注がれすぎて、子ども監視社会になってしまっているというのはそのとおりだと思います。昔は怖いカミナリおやじみたいなのがいて、よく怒られたものだということを引き合いにだして、子どもは厳しくしつける方がよいという意見に対して、昔の怒られ方は「芋の子洗い方式」で、ひとりひとりにかかるプレッシャーは少ないものだったと筆者は反論します。現代は、むしろ親が「しつけない」と決意するくらいでちょうどよい、子どもののびのびした子どもらしさが失われ、よい子が生産される社会は危機的であるとしています。筆者の考えは、愛情を持って受容すること、それに尽きるようです。本書は筆者の豊富な臨床体験に基づいて構成されているので、アドバイスは具体的、ひとつひとつの言葉が現実的な重みをもって浮かび上がってきます。マニュアル化された育児書などを読むより何倍も役に立つことでしょう。
 そういえば、ル・グィンは、最も偉大な力は「受容」と言っていました。