ゲド戦記再読終了

影との戦い―ゲド戦記〈1〉 (岩波少年文庫)

影との戦い―ゲド戦記〈1〉 (岩波少年文庫)

 ゲド戦記影との戦い」を深く読むために、後続の巻を読み進みてきました。4巻以降にテーマが変化していることは多くの指摘があるとおりですが、今30代も後半になって読むと4巻以降の世界にどんどん引き込まれていきました。自分の世界に近いという気がしました。それだけに、1巻から3巻に語られている影との合一、平和の回復、生と死の問題などは、時代に拘束されない普遍性を獲得しています。また、ル・グィンが創ったアーキペラゴの世界は本当に精緻に創られているので、これだけ1巻から最終巻まで時間が空いても、矛盾が生じていません。ただたんに場所だけでなく、その場所にまつわる歴史まできちんと設定されている(作者は発掘すると言っています)ので、意味づけについても矛盾が生じていません。
 ゲド戦記の魅力のひとつは、作者が書いていることが常にその世界の一部分に過ぎないと思わされるところです。様々な細かい設定をしているのに、全然書かない。いわゆる説明キャラのようなあからさまな叙述をする者もなく、読者はこの世界を一緒に漂っている気持ちになります。このような形なので、ロークや魔法使いの意味づけが後半でかなり変化していっても、見方の問題で180℃意味づけが変わることもある、あるいはそれは物事の裏表に過ぎないと自然に受け入れることができるのです。実際、私たちの生活している世界はそのような世界で、全世界に共通の唯一の意味だけを持った権威や思想など存在しないのですから。