ゲド戦記再読1

こわれた腕環―ゲド戦記〈2〉 (岩波少年文庫)

こわれた腕環―ゲド戦記〈2〉 (岩波少年文庫)

「影とのたたかい」を詳細に読み込んだ上で、「こわれた腕輪」を再読する。「ゲド戦記」と銘打ちながら、ゲドはなかなか出てきません。ほとんどはテナーのお話。何かの文章で、この「こわれた腕輪」は少女が生まれ育った家や両親の元を離れて、他の男と一緒になる(結婚する)話だというようなことが書いてあって、なるほどと思いました。暗闇から脱出する時もテナーは何度も躊躇し、一緒に行くと決めたケドを殺して、再び暗闇に戻ろうかと考えたりします。その場面。短剣を握ったテナーを見て(「短剣には、目もくれなかった」)、海を見ながら「『さあ、出発だ……。行かなくちゃ。』ゲドは自分に鞭打ちように言った。」というところは、印象的です。暗闇から脱出して未来へ進もうとする場面なのに、むしろゲドはつらそうです。言葉では行きたくないと言っているテナーがむしろ新しい世界へ飛び立つ事に喜びを感じており、ゲドの方が止まりたい雰囲気が感じられます。この場面の少し前では、「わたしは、わたしを呼ぶ声の命じるままに動いているんだよ。その声は、まだどこにも、一か所に長くわたしをいさせてくれたことはなかった。わかるかい、テナー?わたしは自分がしなければならないことをして生きているんだ。わたしは、どこへ行くにもひとりで行かなければならない」とあります。「影とのたたかい」の中で、学院の長に同じようなことをゲドが言われている場面があります。学べば学ぶほど道は細く狭くなり、するべきことをするだけだというような内容だったと思います。
 魔法が信頼に基づいて発揮されている場面も印象に残っています。ル・グィンの考える魔法は、実に私たちが日々言葉を使って行っていることなのではないかと思わされます。信頼を紡いでいくという。