人類が試されている。

日本の大転換 (集英社新書)

日本の大転換 (集英社新書)

 「このパンフレットで、私は日本人が当面している二つの重大問題に、明確な言語表現をあたえることによって、問題解決への糸口を見出そうと試みた。」と筆者が言っているとおり、今回の津波による原発の事故の意味を大きな文明史的観点から整理することができると思います。
 筆者は原子力エネルギーを第七次エネルギー革命であるという考え方を紹介し、第八次エネルギー革命に移行していかなければならず、それは日本から始まっていくべきだと論じます。ちなみに第五次が石炭、第六次が石油、第七次が原子力、第八次は風力や水力などの自然エネルギーの利用となります。筆者の議論が冴えているのはここからで、第六次までのエネルギーは基本的に太陽からもたらされた(これを筆者は「贈与」と名付ける)エネルギーが光合成などの媒介を経て生態圏の内側に取り込まれたもので、一方的に与えられた恵みとして人間が享受してきた。しかし、原子力は太陽を真似したエネルギーで、本来生態圏の外側(宇宙)に存在しているもので、それを無媒介に生態圏の内側に存在させようとしているのが、原子力であると。もし本当にこの技術が生態圏で安全に運転できるのであれば、与えられることなく人間は無限にエネルギーを取り出す装置を手に入れたことになり、人間以外のすべての生物にそっぽを向かれてもやっていける方法を発明したことになる。しかし実際には生態圏内で、本来生態圏外に存在するエネルギーを無媒介に使うことには無理があり、今回の原発事故はそのことを浮き彫りしたのであった。
 筆者はさらに経済とエネルギー革命の関係を論じ、資本主義と原子力は親和性があると主張します。これはユニークで説得力のある説で、二つを結びつけるのは「贈与」という概念です。資本主義は本来贈与関係によって作り出された生産物を、貨幣に置き換えることで贈与の概念をそぎ落とし、完結した循環システムをつくっている。このシステムは閉鎖された循環システムという点で原子力とよく似ており、親和性が高い。資本主義の発展と原子力エネルギーへの第七次エネルギー革命は連動しており、第八次エネルギー革命が起きれば、経済システムの方も変革を迫られる。そこには再び贈与の働きが復活すると筆者は指摘します。それは過去に戻るような発想ではなく、全く新しい経済システムとして立ち現れてくると筆者は推測しています。