太平洋の橋とならん
- 作者: 鈴木範久
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2007/05/16
- メディア: 文庫
- クリック: 5回
- この商品を含むブログ (11件) を見る
人格の養成のために読書をすることを勧めている項などは現代の私たちへの叱咤激励にも聞こえます。「とにかく活版業の今日のように盛んになる前までは、少なくとも平均以上を超えたものでなければ版にならなかったものであろう。であるからぼんやりしているよりは、何でもよいから読んでおれと言う言葉は昔はあるいは当っていたかも知れぬが、今日は読まない方がよいだろうと思われる本が非常に多いのだろうと思う」とありますが、文久2年生昭和8年没の新渡戸にしてこの言葉です。況んや、現代に於いてをや。そこで、時代が変わっても残りつづけるであろう、クラシックスを読めと新渡戸は言っています。これはある程度の知的水準にある人々は現代でも誰でもそういうようです。「バイブル、バーゼル、ダンテ、シエクスピア、ゲーテというような物は揺ってもどうしても動くものではない」と言っています。この他に法華経、論語、老子がアジアでは入ってくるだろうけれど、日本のものは何か入るかと疑っています。プラトー、プルタークをさらに加えています。
論集なので、いろいろな場面で話されたことが入っているのですが、「愛国心」に関する言葉は現代にも充分に通用します。「自分の政府の為したことは、何事にもあれこれであるがごとく認め、賛同しこれを助けることが果して真の愛国心であろうか。理非曲直の標準は一国に止まるものでなく、人類一般に共通するものである以上、寧ろ是は是、非は非と明に判断し、国が南であれ北であれ、はたまた東であれ西であれ、正義人道に適うことを重んずるのが真の愛国心であって、他国の領土を掠め取り、他人を讒謗して自分ののみが優等なるものとするは憂国でもなければ愛国でもないと僕は信じている」こうした本当の意味での愛国心を、日本が戦争に向かっていく時代に発言していた新渡戸は勇気ある人物であり、真の愛国者です。でももしかしたら、こういう人物であったからこそ、現代では忘れられているのかもしれません。わかりやすいキャッチフレーズで愛国心をあおり、欠点を挙げて正しい道を述べようとする人を見えなくしている国では。