息子が書くのは珍しい。

父・夏目漱石 (文春文庫)

父・夏目漱石 (文春文庫)

 森鴎外太宰治幸田露伴など文豪と呼ばれる人の娘が小説家や随筆家になっている例は多いと思います。森鴎外に息子は3人いたと思うけれど、長男が医者、次男は憶えていません。三男が、何かに親父が偉すぎて弱ったというようなことを書いていたおぼろげな記憶があるくらいです。
 この夏目伸六さんの書いた本は随筆に分類されるのでしょうけれど、漱石研究の資料としても一級だと思います。弟子達が書いたものや、母の書いたものを批判的に取り扱い、父の姿を正確に伝えようという熱意が感じられます。その原稿力は、伸六さん自身が書いている、ある種のうしろめたさなのかもしれません。いずれにしても漱石を直接に知る人の書いた最後の文章でしょうから、今までの文章を踏まえつつ、丁寧に事実を追い求めています。