神話を読む。

海辺のカフカ〈上〉

海辺のカフカ〈上〉

 縁あって再読することになりました。一度読んだ本をもう一度読み返すのは本当に久しぶりの体験です。『1Q84』を読んだ後に読み返すことには、ことのほか収穫がありました。現実に重なり、ほとんど変わらない、現実と少し違う世界が広がっている。『海辺のカフカ』はそのことを過剰なまでに説明してくれます。一度目に読んだときには少ししか気がつかなかっただけで、至れり尽くせりの小説だと思いました。また、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』とよく似た、壁に囲まれたような森の世界が出てきます。また、「やみくろ」のような闇の世界の住人を思わせる、暴力を象徴するような何かが出てきます。現実世界にいるはずなのに、そこで異界であるような世界は、すでに『1973年のピンボール』に古い鶏舎として出てきます。『羊をめぐる冒険』や『ダンス・ダンス・ダンス』には「いるかホテル」が異界として登場しました。『ねじまき鳥クロニクル』では深い井戸が異界の入口になる場合がありました。『海辺のカフカ』では「入口の石」や「森」でかなりはっきりと語られ、説明も詳しいです。森の中の本のない図書館は、「世界の終わり」の「夢読み」を思い起こさせます。影が薄いなどの話も「世界の終わり」の影を思い出します。
 『1Q84』に引き継がれたテーマとしては、暴力の問題がもっと深められています。性交を介して異界につながってしまう。または異界の入口を開いてしまうというしかけは受け継がれています。村上春樹の性描写がわかりやすく使われている点では『海辺のカフカ』はわかりやすい作品です。