常世はこの世か。
- 作者: 緒方正人,辻信一
- 出版社/メーカー: 世織書房
- 発売日: 1996/07
- メディア: 単行本
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緒方が母のことばを受け入れる部分は感動的です。「イヲばとって、カライモ作って、それを食って生きとれば、そいでよかったい」という母の言葉を、世間の狭い、無見識な言葉と蔑んでいた緒方は、運動をし尽くして「狂い」の果てにその深みを体得するのです。水俣病の「解決」というのが、どんなに運動を頑張っても結局、近代社会のシステムの中から出られないことに緒方は違和感を感じます。認定され、お金をもらってしまえば、システムに取り込まれてしまう。緒方は運動から遠ざかり、ひとりでチッソ前に座り込みます。抗議ではなく、人間として対話するために。システムに乗ってこない自分をチッソは扱いかねたと緒方は回想しています。裁判や交渉といったルールに乗って補償金を引き出す運動では、本当に人間としての回復は遠ざかるばかりです。水俣の魚介類や植物なども含めた自然への解決などできないという大局に立ち、人間の罪の問題にまで踏み込んで緒方は語ります。チッソは自分なのだと緒方は喝破する。そこには敵・味方を超えた、人間として自然にどう赦してもらうか、感謝していくかというヴィジョンが見えてきます。