流れに気づいている。

僕は、そして僕たちはどう生きるか
 梨木香歩の作品が好きで結構読んでいますが、初期のファンタジーの方が好きです。でもよく考えてみたら、初期の作品から社会問題、ことに家族や性にまつわるものを鋭くえぐっているものが多かった気がします。今回の作品は題名からも明らかなように、吉野源三郎君たちはどう生きるか』を意識して書かれています。コペルとあだ名をつけられた少年が主人公であることも、コペル君が書物からだけではなく、体験を通して、痛みを通して色々なことを知っていくことも。読んでいてある意味疲れる作品です。自分自身にも問い返させられるからです。『君たちはどう生きるか』は戦争に向かっていく時代に書かれました。今、梨木香歩がやはりこの作品を書かなくてはいけなかったのは、まさに「戦前」だからでしょうか。ファンタジーらしいところはなく、ある意味梨木作品にしてはゴツゴツした印象があります。しかしそういう風にしか語れない問題もあるということでしょう。もちろん、自然の描写、庭の美しさへのやさしい表現は今回もふんだんに出てきます。