あたりまえを再考する。

ひとはなぜ服を着るのか (NHKライブラリー (96))

ひとはなぜ服を着るのか (NHKライブラリー (96))

 最近個人的に好きな鷲田清一。平易な言葉で鋭く世界を切り取ってくれます。しかも基本的に切り取る対象に愛が感じられます。こういう風に説明してくれたら哲学もとっつきやすいです。
 この本ではファッションについて全般に的に取り上げながら、特に服飾と皮膚感覚の関係について詳しく取り上げています。最後の方で、ファッションについて論文を発表したら、周囲から冷たく扱われ、ファッションというものが浅薄なものとしてしか扱われていないことを知ったと書いています。鷲田氏の文を読めば読むほど、服を含めたファッションというものが、人間の社会性と深く関わる人間にとって本質的なものであることがわかります。清潔さへのこだわり、制服についての考察など日常の事柄なのに、いや日常の事柄だからこそ、深く人間の本質に関わるものだというのがよく理解できます。
 鷲田氏の文を読んでいるといつも思うのは、問いを立てることが思考の出発点だということです。深く思考するのはいい問いを立てないといけない。問いを立てる力が必要なのです。題名にもある「ひとはなぜ服を着るのか」もそうですが、あたりまえじゃないか、と思うこと、そんなことどうでもいいじゃないかと思うことにあえて挑戦する、そこに人間をもっと深く理解する鍵があるということなのだと思います。