SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは。

大阪医科大学LDセンター研修
「学校でソーシャルスキルをどう教えるか?その?」
講師:竹田契一先生 西岡有香先生
2011年3月12日(土)13:30〜16:30 大阪医科大学臨床第?講堂
〈集団で外れてしまう子をどうするか〉
第一段階は、行動上の問題を解決すること。
第二段階として、学習上の問題を解決していく。
〈指導の考え方として〉
Bottom Up方式(小学校まではこの方式)
 下から積み上げていってできることを増やしていく。発達段階を重視した教育。
Top Down方式(12才くらいからはこの方式)
 「上から命令してやらせる」の意ではない。その子の特性上の限界を見極め、この年齢で社会に出るとしたら、どのようなことをしたらよいかという視点で支援を考える方式のこと。具体例としては、計算が苦手な子には計算機を与え、ノートをとるのが苦手な子に、必要事項をカメラで撮ることを許可するなどである。
 このような考え方を多重知能(Multiple Intelligence)という。「一芸に秀でる」ことを評価する考え方で、様々なスキルの総合点で知能を判断するのではなく、できることの優秀さがその人の知能であると判断する考え方。アメリカのLD校はこの考え方に基づく。障碍児教育も同じで、できないことをさせるのではなく、できることを伸ばしていく。
ソーシャルスキル教育の目的〉
自尊感情の回復である。アメリカのあるカレッジでは自尊感情の低い者から入学させ、2年間をソーシャルスキルレーニング、1年を就労体験にあて、卒業生の95%以上の就職実績を出している。
〈人間関係で学ぶ「いいかげんさ」〉
 アスペルガー障碍・高機能自閉症などの場合、「いいかげん」が一番難しい。正誤の判断は簡単だが、いいかげんは人間関係や場の流れなどを読む必要があり、理解しにくいが、人間関係の中でしか学ぶことができない。したがって、周囲の人がアスペルガーの人に合わせすぎるといいかげんさのスキルは身に付かない。人間関係のできた相手との間でいいかげんさを学ぶトレーニングをする必要がある。
アスペルガー障碍・高機能自閉症の特徴〉
 ・言語で理解しようとするが、言葉の裏にある真の意味がわからない。
 たとえば、「ろうかを走ってはいけません」という張り紙が学校に張ってあったとすると、定型発達の子は、「ゆっくり歩きなさい」という意味だとわかる。しかしアスペルガーの子には分からないので、「走ってはいけないなら、どうしろと?」と混乱する。「ろうかはゆっくり歩きましょう」などの張り紙にすべき。
・ 直感力の障碍
 アスペルガーなどの特徴として、同じ人から何度もだまされることが挙げられる。ひとりで町にいけるような子が、宗教の勧誘に引っかかったり、何かを買わされてしまったりという事件が起きている。これは、相手が自分の味方か敵か、あやしいか人かどうかなどの判断が直感的にできないためと考えられている。また、「相手がニコっと笑ってくれたら、それはあなたのことを好きって意味なんだよ」などと教えると、自分にほほえんでくれた人すべてを対象にしてしまい、ストーカー的行為の加害者になる可能性がある。言葉を字義通りに受けとって、うそを見抜くことも苦手。
〈ボディイメージから始めるSST〉
 黒板に人体イメージの絵を描き、そこに子どもが正対する。先生が子どものたとえば耳を触ったら、子どもは黒板の耳を触る。定型発達の子は触られたらすぐに黒板の絵を触れるが、発達障碍の子どもは触られた自分の体を触ってから、黒板の絵を触る。したがって、ひじなどの自分の手で触れない部分(逆側の手で触ることは思いつかないようだ)を指示されると、混乱して分からなくなってしまう。
 自分のボディイメージのトレーニングはSSTの基本であり、自己コントロールの基本となる。アメリカのGateway Schoolでは感覚・運動がカリキュラムの中心となっている。
アメリカのプリスクール〉
 プリスクールはキンダーガーデンの前で日本でいうと幼稚園の年少組にあたる。ソーシャルスキルはプリスクールで徹底的に身につけさせる。
 子どもにプログラムを合わせるのであって、その逆ではない。アイコン(絵)を使った個別プログラムで一日が動く。
 環境の整備にも工夫が凝らされ、遊びのスペースのおもちゃなども遊ぶ時間以外は目につかないようにすぐに片付けられるような形になっている。
 また、ADHD用の鉛入りの重いジャケット・椅子に座ってひざに載せる重い袋・落ち着くための全身が入る袋などが用意されている。これらはトップダウンの考え方にしたがって、用意されている。
〈The Help Groupの教育〉アメリカのいくつもある支援学校のグループ
 ネブラスカ州のボーイズスクールからすべてのSSTの基本が生まれている。親がいない、あるいは親と一緒に暮らすことのできない子どもを対象にした児童養護施設から始まった。
 一クラス8名などの少人数教育で、35週の詳細なプログラムが作られている。そのため教員の能力に関わらず一定の効果を出せることが特色である。
SSTの基本〉
導入(どのスキルを学ぶか、その意味)
   ↓
教示
   ↓
  モデリング(見本を見せる)
   ↓
  リハーサル
   ↓
 フィードバック(ほめながら否定的でないアドバイス)→般化(トレーニングの場以外でもできるようになる)
 このような形のトレーニングは子どもに対して親が導入や教示なしで、自然と行っている。たとえば、なにかしてもらったら、ありがとうと言うとか、挨拶をするという行為は、自然と親も頭を下げ、ふさわしい声色で挨拶をし、子どもはそれを見て自然にまねをする。まねをしていなければ、頭を親に押さえられてむりやり挨拶させられるようなこともあるかもしれない。また、できれば、「ちゃんと挨拶できるのね」などと相手の大人にほめられたりする。しかし、発達障碍のある生徒は自然とできないので、導入・教示のプロセスが必要である。
 SSTにおいては、どのスキルをターゲットにするかを決めて行わないと効果的でない。
ライフスキルソーシャルスキル
 ライフスキルとはお金の管理、時間の管理、健康の管理、銀行・図書館の使い方など生きていくために必要な能力である。ソーシャルスキルとは、対人関係を円滑にすすめる具体的行動である。年齢と共にライフスキルソーシャルスキルのバランスは変化していくが、低学年時はソーシャルスキル、年齢と共にライフスキルの占める割合が増加する。
また、二つのスキルの重なる部分として、対人関係調整や自己理解、ストレスマネジメントの能力などが挙げられる。
〈RDIモデル〉
 スキルの習得にはその場での指導が最も効果的であるという考え方。教室でロールプレイで教えるよりも、実生活の現場ですぐに指導が入れられることが重要。そのため、保護者の育成がポイントになる。最近流行の方法論。
SST教育〉
保護者の主訴は学習とソーシャルスキルライフスキルの問題だが、学習に偏っている。目標としては学校を出た後の生活が自分でできるかにある。それはライフスキルの問題である。
 SST教育はすべての生徒に向けての教育であり、発達障碍児に限定されない。多くの子どもがソーシャルスキルが弱くなっている。ソーシャルスキルは知識として知っていても使えないと意味がない。トレーニングであるゆえんである。たとえば、形態認知に障碍がある子は、表情の違いによって相手の感情を読むなどの行動が苦手である。それはトレーニングによってしか伸ばせない。場にふさわしい声の大きさ、声色なども同じである。
〈現代の問題〉
 普遍的なソーシャルスキルが失われていて、家庭教育にばらつきがある。学校教育と家庭教育が矛盾する場合、発達障碍児は非常に困難を抱える。
 中高生向けにソーシャルスキルを教える場がない。