永遠平和

永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編 (光文社古典新訳文庫)

永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編 (光文社古典新訳文庫)

 この「古典新訳」シリーズは読みやすいのでおすすめです。カントの著作は難解だと言われますが、この文庫に収められている作品はどれも一般向けに書かれたやさしい部類のものだそうで、なるほど確かにわかりやすいです。解説にも詳しく書かれていますが、カントは18世紀の思想家ですが、その思想は現代においても新しさを失わない部分があります。
 この文庫版では解説が1/4くらいを占めているので、解説から先に読んで本文を読む方がよりわかりやすいかもしれません。
 「啓蒙とは何か」の新しさには特に驚きます。「ほとんどの人間は、自然においてはすでに成年に達していて、他人の指導を求める年齢ではなくなっているというのに、死ぬまで他人の指示を仰ぎたいと思っているのである。」などは、書店の売り上げトップ10の本のオビに書かれていても驚かない。いや、人間はそんなに変わっていないという証拠なだけかもしれません。
 「永遠平和のために」の思想は後の国連を思わせるような国家を越えた組織体を想定していて面白いです。また、各国がこれだけ経済的にお互いに依存し合う関係において、むしろ戦争が起こしにくくなっている状態は、カントの考えていた平和の状況に近いのだろうかと思います。道徳性に訴えるのではなく、経済の利益によるやむを得ない平和をカントは示唆している部分もありますから。哲学者の理想論と無視することのできないものがあります。