姿勢のお勉強

 奈良文化会館に「日本姿勢科学学会」のセミナーに行きました。10:30から17:30までの講義+実習の中身の濃いセミナーでした。初学者向けのセミナーのため、家庭で使える姿勢矯正の知識と技術を伝授することをコンセプトとしており、さらに深く学びたい者への紹介も兼ねています。
【姿勢の基礎知識】
・よい姿勢とは何か?
 姿勢は骨と筋肉でできている。筋肉がバランスを保ち、体の形を作っている。骨そのものが変形していることはめったにない。筋肉の長年のクセが体の歪みを生み出している。
・背筋がピンと伸びているのは「よい」のか?
 生理湾曲があるのがよい姿勢である。直立二足歩行を行うために重力を効率よく逃がすために背骨は湾曲している。首の後ろに直径17センチの円、胸の下に33センチの円、腰の上に25センチの円が入る形が最もよい湾曲である。このようなカーブが三つある人は腰にかかる重力を1/10にできる。カーブが一つの人(背筋がピンと伸びている)は、1/2の重力がかかる。
【背骨の詳細】
 背骨は頸椎7本、胸椎12本、腰椎5本(計24本)の上から下に向かってだんだん大きくなる小さな骨が重なった形をしている。それぞれ複雑な形をしていて、たとえば首は45度しか回旋しないようにできている。胸椎は屋根瓦を伏せたような構造になっており、背中から強く押すと、胸椎が壊れ、周囲の筋肉が骨の代わりをしようとして固くなってしまう。したがって、子どもに背中を踏ませたりするのは誤りである。痛みが軽減したように感じるのは、壊れて麻痺してしまっただけであり、筋肉のさらなる張りをもたらすだけである。しかし姿勢は死ぬまで変化するため、筋肉を変える(生活習慣の改善)ことで改善を図ることができる。
【骨にあるのか筋肉によるのか】
 姿勢のゆがみの原因が骨にあるのか筋肉にあるのかを見極めるのが姿勢科学学会の専門家である。自分の歪みに合った治療をしないといけない。一般に、骨を扱うのは「カイロプラクティック」「整体」など、筋肉を扱うのは「マッサージ」「ストレッチ」「ヨガ」「あんま」「オステオパシー」などだが、実際に骨か筋肉のどちらに原因があるか分かる人はほとんどいない。
【姿勢原因の痛み発生のプロセス】
 姿勢が悪い→体の歪み→背骨の歪み→神経の圧迫(背骨と背骨の間に神経が通っているため)→痛み→しびれ(重い・だるい)→マヒ
【神経の三つの働き】
1.知覚 2.運動 3.自律(交感・副交感)※「自律神経失調症」という病名があるが、そういう具体的な病があるわけではない。原因不明の不調にこの名前が付けられる。日本以外にこの病名を用いている国はない。自律神経が司っているのは、心臓の自律運動や消化運動などである。
【姿勢改善の実際】
 痛みのある部分に原因があるとは限らない。姿勢のバランス調整を行うことで痛みが消える場合がある。したがって、家庭における「肩たたき」「背中踏み」「バキボキ鳴らす整体」「クイックマッサージ」などは治らないどころか有害である。
 体には200くらいの関節があり、それらに熟知していなければ体に触れるのは危険である。巷のマッサージや整体の施術による事故(死亡を含む)はあとを絶たない。また、ベビーマッサージなどは関節の未発達な幼児には大変危険である。
【姿勢チェックの方法】
自分では分からない。左右対称であるべき所(耳たぶの高さ・肩(肩峰)の高さ・肩甲骨(下角)の高さ・骨盤(腸骨)の高さ)重力中心線がまっすぐかどうか(外耳孔と肩峰・大転子・側関節の1センチ前・外くるぶしの1センチ前)
【姿勢業界はどうなっているか】
 2006年WHOで世界基準ができた。世界基準では4200時間の対面教育(専門教育)が必要と定められた。これは大学に4年間通う年数である。つまり、一般教養と合わせて6年間の日本の医学部と同等である。この中には病理学の学習も含まれ、医師と同じである。したがって米では医師免許である。しかし日本では無資格である。日本には専門の大学は一つもない。日本に米で資格を取った有資格者は現在、200〜300人くらいいると言われている。しかしカイロの看板は4万件以上。つまりその多くが専門教育を受けていない人による施術ということである。そのような人たちは40時間くらいの研修で開業している。
 現在、日本姿勢学会では300時間の学習で、技術を行うマイオセラピストを育成し、カイロプラクター(ドクター)とチームで施術に当たる形を取っている。ちなみに、「あんま」「整骨院(柔道整復)」「鍼」「灸」「マッサージ」は国家資格である(人の体に触れたり、影響を与えるのは資格がいる)。したがって「アロマ」「リフレクソロジー」「整体」「ロミロミ」などは国家資格ではなく、お金を取って営業することは違法である。カイロは国家資格ではないが、国際基準に基づく。しかしこのようなことは国民に周知されているとは言えず、怪しげなマッサージ店が大繁盛する状況を生み出している。国家資格に基づかない施術によって事故を起こすと「傷害罪」となってしまう。国家資格に基づくそれは「業務上過失傷害」であり、罪の重さは大きい。
予防医学としての姿勢療法】
 たとえば整形外科は手術が専門で、切って治すのである。姿勢療法は悪くならないために関節を動かすのである。病院は病気になった人を治すところだが、病気にならないように生活習慣を変えるのが姿勢療法であり、そういう意味では糖尿病などの生活習慣病と同じである。問題は、そういう視点で国民を教育する健康科学の考え方が日本ではまだ未発達であることだ。
 姿勢療法では体を建築物のような構造物と考え、その歪みを物理的に解決してゆくことを目的とする。そういう意味では、医学よりも物理学に近い。ただ、生体を扱うため、基礎医学の知識は必須である。