少年のまなざし

銀の匙 (岩波文庫)

銀の匙 (岩波文庫)

 幼年期から少年期の感じやすい男の子の気持ちをつらつらと描写した作品。美しく、細部の描写も繊細で官能的でさえあるけれども、全体的には退屈な内容ではある。銀の匙を発見した主人公が過去を回想する形で物語は始まり、題名も「銀の匙」となっているけれども、それが全体を貫くモチーフとなっているわけではない。かろうじて「伯母さん」との思い出と繋がっていることは読み取れるけれども、弱い。最後の方で伯母さんと再会する場面があるが、たとえば、太宰の『津軽』における「たけ」との再会のような印象深さはない。たけとの再会の場面はあっけないほど淡々と書かれているにも関わらず、何となく胸がいっぱいになった感じが伝わってくる。それまでの構成がそうさせているのである。『銀の匙』にはそういう構成や全体を貫くテーマのようなものがないような気がする。でも平和で美しい作品である。