経済を知ろう

早わかりサブプライム不況 「100年に一度」の金融危機の構造と実相 (朝日新書)

早わかりサブプライム不況 「100年に一度」の金融危機の構造と実相 (朝日新書)

 メディアで「サブプライム」という言葉を聞かない日はないんじゃないかという気がするくらいの日が続いていましたが、じゃあ、サブプライムって何?というとよく分かっていません。難しい経済本を読む余裕も力もないので、「早わかり」という言葉に惹かれて読んでみました。結論から言うと、読んでおいてよかったと思いました。今朝の新聞の経済欄から役立ちました。それにしても読めば読むほど、現代の経済って構造的におかしいよと思います。自分が株式などを買ったこともないし、たぶん将来も買わないと思うのでそう思うのかもしれませんが、借金を証券化して売るというのはほとんど理解不可能です。いや、何をしているかは理解できるのですが、感覚的に理解できません。自分もマンションのローンを抱えているから、借金しているじゃないかと言われればその通りですが、この家をさらに転売して利益を得ようとしているわけではないし、そういう不安定な生き方は性に合いません。これでは起業家にはなれませんね(笑)。
 サブプライムローンについて分かったこと。住宅ローンをいくつもまとめて束にして証券化することで、リスクを減らせる。つまり、100本の住宅ローンがあって、そのうちの5本が不良債権化しても、95本を回収できるなら利益を得ることができる。束が多くなればなるほどリスクは低くなる。これを「大数の法則」という。さらにその束を種類別に3種に分ける。優良部分をシニア債、良部分をメザニン債、可部分をエクイティという。シニア、メザニン、エクイティの順で価格が下がり、安全度も下がる。このエクイティがサブプライムローンで、全体の5%しかない。(プライムとは「最良の」という意味。「サブ」は下位の意)5%しかないサブプライムローン不良債権となった時、投資家達に不安が広がり、メザニンやシニアも危ないのではないかという危機感を生み、価格が暴落した。証券化された住宅ローンの束は1回の転売では済まず、束の集まりである証券をさらに束にして転売するようなことが行われた。その買い手にはGSE(米住宅金融公庫)があり、「公的で安全な証券」のイメージが付加された。米国債並の信用度で取り引きされていた。また、サブプライム不良債権者は自動車ローンやクレジットのローンも抱えていたため、そちらの方面へも不安が拡大した。サブプライムローンは大手の銀行、世界の銀行(日本の地銀も含まれる)などに証券化されて転売されていたため、全世界に一瞬にして広まってしまった。GSEの負債は米国政府がすぐに補填すると思いきや、しばらく支援が行われなかったため、米国債にまで不安が広がる危機が生じ、初めて公的資金が投入された。大手銀行は損失を出さないために、サブプライムが含まれている証券がふたたび上昇するまで待ったが、上昇せず、多額の負債を抱えてしまった。その負債を補填したのは、中国やインド、シンガポール、日本などのアジアマネーと、中東のオイルマネーだった。リーマンブラザーズは負債の発表が遅れ、これらの支援を受けられず、米国も見捨てたため、破綻した。著者はリーマンにはアジアや中東のマネーが入っていなかったため、見捨てられたのではないかと推測している。つまり、これらの国々は米国債を多量に保有する国々で、これらの国々に損失を与えては政治・経済的に良くないと判断したのではないかということ。保険大手のAIGの実質破綻は別の話がからんでいて、CDS(クレジット・ディフォルト・スワップ)という倒産保険が引き起こしている。A社がB社に投資しているとして、B社が倒産した場合、C社がA社にA社がB社に投資した元本を保証するというもの。その代わり、A社はC社にA社がB社に投資している額の1%を保険料として収める。B社が倒産しなければ、C社は保険料を受け取り続け、A社は仮にB社が倒産しても元本が保証されているので安心して投資し続けられるという優れたシステムだった。また、このシステムを使って実際には投資をしていなくても、保険料に当たる金を払っていれば、仮に倒産が起こった時に元本に相当する金が受け取れるような「投資」も行われていた。そういう中でサブプライム問題が起き、倒産が相次ぎ、特にリーマンの破綻は巨額で、保険料が支払えなくなった。A社がC社にB社倒産の保険をかけているということは、B社には知らされずに行われるため、CDSがどこに隠されているのか誰にもわからなかった。最大手のAIGが破綻してしまうとCDSで信用を買っていたはずが、買えていなかったことになり、他の金融機関も連鎖破綻する可能性があり、米国経済が破綻してしまうため、米国はAIGに多額の融資を行って救済した。
 この本ではさらにこれからの見通しが語られており、興味深かったです。日本の山一証券の破綻からみずほ銀行の実質国有化までの日本のバブル後の失われた10年に比較して、米国も多額の公的資金を金融機関につぎ込んで救済していくことになるだろう。それには少なくとも2年はかかる。2010年から米国経済は持ち直すだろう。日本はサブプライムの直接的な影響は少ない。無傷の個人資産が銀行に眠っている。三菱UFJモルガン・スタンレーに9000億円の出資をし、野村ホールディングスがリーマンのアジア・欧州・中東部門を買い取っている。もっと日本はモノを言っていいし、世界の経済をリードしていい。
 中東のオイルマネーの国々は米国とドルペッグという契約を結んでいる。ドルと為替レートをペッグ(連動する)こと。日本のように円高・円安と気にしないでよい。ドルが強ければ安定して取引できる。米国とすれば、マネーが安定的に供給される。中国はドルと為替レートに上下の幅を持たせて連動させており、ほとんどペッグ制と変わらない。今、米国債を一番保有しているのは中国で、次が日本。日本は米国とペッグ制を取っていないので、米国を一番の取り引き先とする理由はない。日米同盟など政治的な問題も絡んでいる。米国盲従の姿勢から脱却すべき。
 会計ルールが急に変更になり、格付けの仕方が欧米では勝手に変更されている。日本だけがリーマン破綻後の時価で評価されるという不利益を蒙っているが、日本は何も言っていない。違うルールで行われた決算でグローバルな競争を強いられている。日本はおかしいことをおかしいとちゃんと主張すべきである。