チェルノブイリの今

チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1

チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1

 1986年4月26日にウクライナ旧ソ連)で起きた原発爆発事故のその後については、映画『チェルノブイリハート』で見た記憶がありますが、いずれにしてもあまり日本では積極的に報道されてはいません。フクシマが今後どういうことになるのか、その未来を予測するためにそして何か少しでも予防できることがあるなら、それをするべきだと思います。折しも水俣条約が成り、世界で起きている水銀中毒について一定の方針が固まりました。水俣の犠牲がこれによって救われるのは思えませんが、その意味が形になったことはいいことだと思います。原子力爆弾の威力とその後遺症については日本の被爆者の犠牲の上にその研究成果が生かされているはずです。ナチスユダヤ人虐殺でさえ、その後の人類の思想的・科学的・心理学的知見に一定の貢献をしているはずです。これらは「結果的に」壮大な実験になっているのですから、そこから導き出された教訓はすべて汲み出し、引き継いでいかなければなりません。そのような観点から見ると、チェルノブイリの今を直視しないことは、フクシマの未来を五里霧中の中に置き去りにするに等しいのです。一番被害を被るのは間違いなく一番弱い人たちです。
 本書では、チェルノブイリが現在、原発ツアーの観光地となっており、外国人の受け入れを積極的にしているという事実を紹介し、実際に現地がどうなっているのかをレポートしています。観光地化することの是非はもちろん現地でも存在するようですが、多くの人にここを見てもらい、記憶が風化しないようにという思いは皆共通にもっているようです。写真や図版も多く、様々な人たちに取材しているので、読み応えのある本です。雑誌のような形態なので頭から全部読むというよりも、どこからでも拾い読みしたらいいと思います。