人生を重ねるごとに面白い。
- 作者: 向井去来,服部土芳,潁原退蔵
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1991/01
- メディア: 文庫
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じだらくに寝れば涼しき夕哉
猿蓑撰の時、宗次一句の入集を願いて、数句吟じ来れど、取るべきなし。一夕、先師の「いざ、くつろぎ給へ。我も臥しなん」とのたまふに、宗次も「御ゆるし候へ。じだらくに居れば涼しく侍る」と申す。先師曰く「是、発句なり」と、今の句に作りて、「入集せよ」とのたまひけり。
芭蕉は作為のある句を嫌い、自然に生まれ出る句を愛しました。ここでは「猿蓑」という句集に弟子が一句入れて欲しいと願っていくつか句を作ってきたが、よい句がなかったところ、普段のふとした言葉を芭蕉が捉えて、これが発句だと言ったという話です。芭蕉がいついかなる時も俳諧のことを忘れていないこと、弟子の句を入れてやろうと気に掛けていることが感じられて微笑ましいです。
『三冊子』は服部土芳が書いた俳論書で、『去来抄』よりも論としてまとまった体裁を取っていて硬いです。「付け」とか実際の俳諧の方法が知られて興味深いです。また、いくつか「改作」が示されていて(『去来抄』にもある)、こっちの句よりこっちの方がいいということの理由が詳しく書かれていて、私のような者にも、何が「俳味」であるのかがよく分かります。理論をあれこれ読むよりもやはり実作を目にする方がよく分かります。この辺は『六百番歌合』と似たところがあります。これは藤原定家の判が詳しく、和歌の優劣がどの辺で決まるのか、つまり和歌の美とは何かがよく分かるのです。
何にせよ、古典は年を重ねるごとに面白い。また、芸道を極めた人の言葉には聞くべき事があります。「プロフェッショナル仕事の流儀」と同じですね。