日本の思想はこれからか?

仏教、本当の教え - インド、中国、日本の理解と誤解 (中公新書)

仏教、本当の教え - インド、中国、日本の理解と誤解 (中公新書)

 サンスクリット経典、漢訳経典を詳しく読み込み、インドで発生した仏教が中国、日本へと伝わっていくにつれてどのような変遷を経てきたのかを詳しく書いています。
 著者は女性差別ジェンダー問題を博士号取得論文とした人で、仏教が女性差別的なのかどうかを探っていきます。また、抽象思考が得意なインドのあり方から、中国、日本へと現実主義的に変化していった様子も探っています。
 翻訳の段階でかなりのミスがあり、それがそのまま日本にまで持ち込まれ、2000年も経過してしまったことを考えると、怖いことだと思いました。原典を見て訂正する人がいなかったのでしょうか。しかし著者も指摘しているように、意図的な読み替えもあったようですから、ミスが発見されても、あえて訂正しないということもあったのかもしれません。日本では漢文の書き下しに関しては、どう考えてもそうは読めないだろうと思われるような読み方をしていて、教義を自分たちに都合の良いように読んでいったということもあるようです。そこから新しい思想が生まれたりしていて、いい影響もあったようですが、原典からは大きく逸脱しているわけです。
 ブッダが「目覚めた人」を意味する普通名詞であることは知っていましたが、インドでもブッダの死後、神格化されていったというのは、ブッダの真意ではなかったにしろ、ありそうなことです。日本では大仏まで作られて、信仰の対象になっていますが、本来像を拝むような信仰はインドにはないようです。現世利益の考え方は中国に入って出てきて、日本に伝わり、それが日本では「現世肯定」の形に変化していったということです。僧の妻帯や飲酒などはネパールなどの仏教徒には非難されているとか。
 何しろ筆者の語学力が半端ではありません。細かい字義の違いにこだわり、本当に伝えたかった(であろうこと)を探り出していく姿勢には執念さえうかがえます。しかし文体は軽く、時々吹き出すようなこともありました。