いい本でした。

神様のカルテ

神様のカルテ

神様のカルテ (2)

神様のカルテ (2)

 
いろいろと考えさせられる本でした。著者は信州大学卒で地域医療に携わっている、1978年大阪府生まれの医師ですから、この小説のお話は大半は事実に基づいた、半自伝的小説と言ってもいいと思います。
 医師が人の命のために、自分の健康や家族、生活を犠牲にしていく様子が描かれています。自己犠牲的な奉仕の姿は美しいですが、それが医師に対する強制のようにさえ働いている。それを当然と思う患者やその家族もいる。医師も一人の人間なんだという当たり前のことが切々と迫ってくる感じは、実際に現場にいる医師の本物の気持ちだと思います。
 また、延命治療だけが命への本当の向き合い方なのかという難しい問いへも私たちを向かわせます。どう生きるかも大切だけれど、どう死ぬかということもまた同じくらい大切です。それは、誰に看取られるかということと深く関係しています。大切な人とちゃんとお別れをして逝く、それは死ぬということの最も大切なことなのではないか、それは死ぬ者にとっても、残されたものにとっても。
 自分を犠牲にしても他人を助けるべきか、自分を優先して、他人の命はあきらめるか、これは容易に答えは出ません。正解はないでしょう。筆者の言葉を借りれば、「良心に恥じぬということだけが、我々の確かな報酬だ」ということでしょう。理屈でいくら正しさを装っても、自分の良心は欺くことができません。そこにしか人間の行為の本当の基準点はないのかもしれません。