哲学を日常に

自然と労働―哲学の旅から (人間選書 (79))

自然と労働―哲学の旅から (人間選書 (79))

 哲学を人間感覚から切り離して考えるのではなく、現実世界にはまり込む形で思考していく考え方に共感を抱きました。マルクス主義の批判は様々な角度から読んだり聞いたりしたことがありますが、この本ほど理解できたことはありませんでした。
「人間は決して原則どおりには生きていない。たとえば第五章でふれたように、資本制社会のもとでは、原則的には、人間は自分の労働力を商品として切り売りしながら生きている。しかし同時に人間はその〈稼ぐための労働〉を〈仕事としての労働〉に転化しながら生きている。そこに労働力商品の論理だけで割り切ることのできない、人間に付随する世界が生まれている。」
 理性的に思考することは大切だし、理論の純粋性を追究することも必要だと思います。しかし、人間社会を相手にしている以上、最後は人間に帰ってこなければ現実的ではないのです。現実には人間の弱さや弱さ故の強かさなどがからみついてくるのですから。