サルになる?
- 作者: 岡田憲治
- 出版社/メーカー: 亜紀書房
- 発売日: 2010/10/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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本書の前半は幼児語の実例が実にリアルな描写で(筆者が体験談とそれに近いフィクション)、おもしろおかしく語られます。電車の中で読むのは危険です。しかし本当は笑えない現実なんですが。ここではことばが足りなくなるとどういう現実が起こってくるのか、事実起こっているのかを詳しく紹介しています。
また、メール256文字(無料範囲)以内で話す人が増えているとか。恐ろしいことです。
中盤から後半にかけてはやや真面目な口調で、ことばが世界を作っていくという本題に入っていきます。ことばが世界を分節化するというのは今や言語学の定説のようですが、ここから一歩踏み込んで、政治の話にまで飛躍します。筆者曰く、ある認識を「ということになっている」という「いまさら言うまでもない前提」にさせることを「政治」と言います、と。とても納得のいく定義です。言語学的に言えば、ことばははじめから虚構的要素を含んでいて、それによって分節化された世界も結局虚構にすぎないということになります。ですから、それを意図的に操作して現実を作り上げていくことが政治だということなのでしょう。問題はその「意図」が誰のために行われているかということに尽きるのでしょう。
小泉旋風が巻き起こった劇場型政治は、まさにことばをなくしていった大衆が「郵政民営化しなければならない」とだけ言い続けた小泉氏を支持して300議席以上の圧勝を自民党にもたらしたと筆者は分析します。あの選挙で郵政民営化の中身を分かって投票した人はほとんどいません。また、投票した人の多くは無党派層であり、若者です。筆者も指摘するように、小泉氏が推し進めた構造改革はその若者の職を奪い、賃金を下げ、生活を切りつめさせるものだったのにもかかわらずです。小泉氏は大衆に小泉氏の作る「現実」を一時的にせよ、信じさせたことに成功の要因があり、ことばを失うとは、解釈を他者に独占されることだと指摘しています。
サッカーの例を詳しく挙げながら、自分の意見を自分で考えて自分のことばで語れることがいかに大切であるか、海外の教育では常識になっていることが、いかに日本の教育でおろそかにされているかを語っています。その中で、マスコミの責任を痛烈に批判します。「今日の試合をふりかえってどうでしたか?」という形の決まり切った意味のないインタビューしかしないマスメディアの責任です。サッカーなら、サッカーの内容について聞くべきなのに、「気持ち」を聞こうとし、期待される答えもほとんど決まっている「みなさんのおかげで頑張れました」というところにことばの衰退を見ます。
また、正岡子規が幼い頃に漢文を意味も分からないままに祖父からたたき込まれた経験がすばらしい短歌を生む素地となったという指摘がありましたが、加藤周一は『日本文学史序説』の中で、漢文素読世代とそれ以後の世代に分けて、漢文素読世代の卓越した言語力と語感について書いています。福沢諭吉がアジアの文化を低くみながら、西洋の文明を日本に紹介できたのは、皮肉にも卓越した漢文の力によると指摘しています。翻訳と日本語の関係については、水村美苗の『日本語が亡びるとき』に詳しいです。
- 作者: 加藤周一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1999/04/01
- メディア: 文庫
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- 作者: 水村美苗
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2008/11/05
- メディア: 単行本
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