成長すること。

 題名だけ読むと、手っ取り早いハウツー本と一緒にされそうですが、そういう本からは最も遠いところにある本です。むしろ、『論語』とかそういう本が近いと思います。書かれていることは納得のできるものばかりですが、著者自身も言っているように、それを行っている者は少ないのです。
 現在を知識を中心として世界と考え、主に知識労働者の組織(ほとんどの企業がそうだし、病院、学校、NPO法人などすべてそうだ)の運営や意義を丁寧に実例を元に描いていきます。どんな組織であっても、使命に向かって進んでいくことが最も大切で、利潤を目的に進んでいくことは行き詰まってしまう、個々人の能力は組織への貢献に焦点を当てるときに最大の成果を得られる、権限に焦点を当てる、つまり自分がどれだけ部下を持っているか、どんなに権力を持っているか、影響力を持っているかなどの場合は、成果は得られない、といったことがパート1、2あたりで書かれています。
 私はこのあたりを読みながら、中国の古典を思い出していました。『戦国策』などはよくその辺がよく出ていると思いますが、成功した偉大な君主や領主は自分の持っている権威や土地、財宝などを惜しげもなく捨てる勇気を持っています。そして人材を大切にしながら、明確な使命を持っていました。
 パート3がとても面白いのですが、「自らをマネジメントする」ことの意味と方法が書かれています。これなどは、中学生くらいから読んでおいた方がいいと思います。ドラッカー自身、13歳の時の体験として、宗教の先生から言われた、「きみたちは、何によって憶えられたいか」という問いかけを重要であると指摘しています。「13歳で答えられなくても、50歳になって答えられなければ、人生を無駄にしたことになる」というその先生の言葉は厳しい言葉ですが、個人としての成長を目指すのであれば避けられない問いなのでしょう。ドラッカーはそれを「自分の強み」は何かを問い続けることだとしています。その専門性を使い、組織に貢献し、組織の使命を実現していく、自分の価値も高めていく、その中で初めてチームワークも生まれます。自分の能力だけに焦点を当てていては、チームワークは生まれず、その能力も十分に発揮されず無駄になります。ドラッカー曰く、専門性は他の分野と統合することによって初めて成果を生み出すことができる、そのとおりです。ドラッカーはその考えに基づきながら、現場で具体的に無駄な会議や無駄な時間を減らしていく方法を書いています。
 時間管理については、一章を割いて詳述しています。「時間を記録し、管理し、まとめるという三つの段階が、成果をあげるための時間管理の基本となる」紙に計画表を書くことは無駄なのでやめよと言っています。時間の記録についてのある会長の話として、その会長は、自分では時間を大きく三つにわけて、幹部との時間・大切な客との時間、地域活動の時間と使っていると思っていたが、実際には(秘書に時間を記録させて)、工場に催促の電話をしている時間が一番長く、その工場への電話はかえって工場の生産性を落としていたという話が載っています。自分が思っている時間の使い方の感覚と現実がいかにずれているかの実例です。ドラッカーは時間の記録をつけよと勧めています。その上で、誰にも邪魔されない時間をまとめて取り、集中して一つのことを行えと言っています。
 集中についてはこれも一節を割いて説明しています。「成果をあげられない人の方がよく働いている」と。集中して一つのことを行った方が、多くの仕事を早く終わらせることができると指摘しています。
 他にも言葉ひとつ取り上げても人生訓として通用しそうな金言がごろごろしています。ただドラッカーに心酔してその言うとおりにするだけの人は、かえってドラッカーの考える成果を上げられる人からはほど遠いということはわかります。