バカになるのか?

ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること

ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること

 インターネットの様々な機能を使いこなすことで、人間の脳がシナプスレベルで変化するという怖いお話し。しかし、単に感情的な論ではなく、そもそも道具が人間の脳にどのような影響を与えてきたかを「本」の誕生から説き起こしていきます。
 文字が発明されてそれを何かに書くという行為をする以前、人は多くのことを記憶していた。思想は声に出して議論によって深められた。物事を書き記すようになった時、当時の人は人間の記憶が影響を受けるのではないかと危惧したという。また、本は人間に黙読の習慣を生じさせた。かつて本を読む行為は音読が主流だった。黙読の習慣は、人間に沈黙の中での持続的な集中力を与え、深い読みを生まれさせた。グーテンベルク活版印刷を発明し、本が大衆に普及するようになると静かに読書する習慣が広まることになった。その広範な深い読書をする人々に向けて深い思索の本が提供されるようになった。
 ネット時代になり、読書は電子データ化され、モニター上で見られるようになった。電子化されたデータをダウンロードすれば、一度に何冊もの本を持ち歩き、文字の大きさも変えられ、言葉にはリンクが貼られ、関連するウェブサイトにアクセスすることができる。筆者の詳細なデータを駆使した説明によれば、この道具を使ってする読書は、以前本が提供していた「直線的な読み」ではなく、しばしば中断される読みであり、長時間の集中に耐えない。その世界では『戦争と平和』や『失われた時を求めて』など誰も読まない。これらは不毛に賞賛されてきたと、ネット信奉者は言う。
 ネットサーフィンする「読者」は何も読んでいないことが実験結果から明らかになった。読者は「スキャン」しているだけで、何かを集中して「読む」ことはしていない。次々と現れる情報をスキャンし、次々と飛びまわる。しかし頭の中には何も残っていない。慢性的な注意散漫状態になることが明らかにされている。ネット信奉者に言わせれば、一冊の本を集中して読むのは時間の無駄であり、次々と新しい情報を処理し、必要な部分をスキャンしていく能力が未来には必要なのだという。人類は進化し、脳はネットに合うように変化していく。
 後半ではグーグルがネット世界に果たした役割を詳述する。ここでグーグルが人工知能を作ることを目標にしていることを初めて知った。脳の構造をコンピューターで完全にスキャンすれば、人工知能を作ることができるという理論があるそうだ。
 筆者は記憶に関して、短期記憶と長期記憶の仕組みを詳しく説明している。短期記憶は作業記憶とも言われ、すぐに消えてしまう記憶だが、反復して覚えることで、長期記憶へと変えることができる。ネットでの情報処理は、人間が一度に扱える作業記憶の量を超えており、その多くは短期記憶にさえ残らずに漏れてしまう。次々と新しい情報が舞い込む中で、長期記憶が形成されることがなく、記憶は非常に困難になる。ネット信奉者に言わせれば、情報はアクセスすればいつでも大量に取り出せ、何が重要であるかは検索シムテムが教えてくれるので、そういうことに人間はもう煩わされる必要はなく、人間はもっとクリエイティブなことに脳を使うことができるという。しかし筆者の見通しは絶望的なものだ。実験によれば、そうした騒々しい(注意散漫状態)脳は、感情面での共感や同情などの感情を経験できなくなるという。
 人間は道具を使い、その使う道具のようになるという言葉がしばしば引用されているが、人間はネットのような人間になっていくのだろうかというのが筆者の危惧である。つまり、人間的感情を排した、情報処理機械のような脳になってしまうということだ。
 筆者はこの流れは不可逆的なものと言っている。つまりいくら不吉な予感がしてももう後戻りはできないということだ。