人間の未来は明るいか。

人間の未来―ヘーゲル哲学と現代資本主義 (ちくま新書)

人間の未来―ヘーゲル哲学と現代資本主義 (ちくま新書)

 ヘーゲル哲学の解説本としても分かりやすいと思いますが、今の問題を解く手がかりをヘーゲル哲学を解析することを通して見出そうとしている、一歩踏み込んだ本です。ポストモダン思想の終焉を語る最終部は理解しながら読んでいくと、ストンと胸に落ちます。そしてマルクスポストモダン思想が陥っている「国家=悪」という図式が本来の近代思想からいかに転倒した批判かをかみ砕いて解説しています。自分自身が知らず知らず、あらゆる価値の相対化というイロニー思想に傾いていて、現実的に機能する選択肢を呈示できない状態(別に世界を救済するというような次元ではなく、日常的なレベルで)に陥っていたと反省させられました。「いま、ここ」でしか生きていく方法がないのだから、「幸福」の追求や「ほんとう」の追求を諦めたり、世の中に簡単に絶望してはいけない。かといって安易な自己満足に落ち着いてもいけない。たぶんすごくめんどくさい世の中になっているのだろうけれど、「自由」の本当の意味を考えながら生きていくしかないのだろうと思います。そう考えていたら、村上春樹が格闘しているのはその辺なんだろうなとおぼろげに見えてきました。