丁寧な取材

死刑でいいです --- 孤立が生んだ二つの殺人

死刑でいいです --- 孤立が生んだ二つの殺人

 母親を殺し、少年院に入った山地悠紀夫は、自分の職場と同じマンションに住む見ず知らずの姉妹を殺害する。本人も遺族も強く死刑を望み、死刑執行は違例のスピード執行となった。しかし事件の全貌や、山地悠紀夫の真意は明らかにされず、反省の言もなかった。
 本書は共同通信の記者が実に丁寧な取材をしてまとめた本です。関係者に話を聞くのはもちろん、専門家の意見もかなり詳しく載せ、この事件の特異性も明らかにしつつ、この事件から見えてくる日本社会の問題点や法的な不備や制度の問題点が明らかにされています。特に少年院の教育についてはあまり知らなかったので勉強になりました。
 山地がアスペルガー症候群ではないかという診断は二転三転していて、二度目の裁判では否定され、責任能力が完全に認められました。この二つの事件の頃、発達障害についてまだあまり知られておらず、周囲の人たちの理解も少なかったようです。そういう中での少年院の取り組みは驚くほど彼の特性を理解していたと思います。実際、少年院にいる間、彼は事件らしい事件は起こしていません。筆者は発達障害はリスク要因の一つと考えています。山地の場合はその上に愛情欠如の中で育った生育歴が大きな影を落としています。その背景には貧困家庭を生み出す社会と、社会からの孤立があり、山地はそれに発達障害によるコミュニケーションの苦手さが加わって、悲惨な事件まで行き着いてしまったという見方ができるようです。筆者は何度も二度目の殺人を防ぐ方法はなかったかを探し続けていました。
 何でも自己責任に傾斜してきた社会。その中でふるい落とされてしまった人たちがいる。その人たちへの視線を失う時、社会は殺伐としたものを抱え込みながら進んで行かざるを得ない。