今年一番

ドキュメント高校中退―いま、貧困がうまれる場所 (ちくま新書)

ドキュメント高校中退―いま、貧困がうまれる場所 (ちくま新書)

 もう2009年も終わりだけれど、今年一番の本に出会ったかもしれません。この本の優れているところは、全体を客観的に見渡すデータが豊富なことと、それを裏付ける具体的なインタビュー記事が多いことです。データというものは個人の顔を見えなくしてしまうし、使い方によってどういう結果でも導き出せる危険なものでもあります(実際、文科省の退学率のデータについて著者が切り込んでいる)。一方、具体的な例ばかりが並ぶと、気持ちは伝わってきて個人の顔も見えてくるが、その人の個人的な体験に過ぎないのではないかという、自分とは無関係だという感覚が生まれてしまう。そのバランスが絶妙です。現場の教員が足を使って書いた本だと言えます。
 「貧困とは選べないことである」一言で言うと高校中退とはそういうことなんだろうと思います。内容についてここにだらだら書くのは無意味なので、印象に残ったことを。社会に貢献する国民を育てたいのなら、社会があたたかく迎えてあげないとだめだというような趣旨のことが書かれていたが、本書を読んで実感しました。選択肢がない人に、がんばればできるというのはほとんど死の宣告に近い。そういう若者が国家のために、社会のために尽くすはずがない、一見意味不明に見える犯罪はこれから減少するとは思えません。
 著者は新自由主義の政策により、教育が市場化したことの罪をわかりやすく説明していますが、全国の政治家諸君はぜひ読むべきです。特に教育委員会を罵倒して教育日本一を掲げる人は、特に読むべきです。競争によって学力が上がるのではなく、はじめから競争の外に置かれている人たちを迎え入れることで、将来の労働者も、家庭も育っていきます。このままでは高学歴の役に立たないホワイトカラーばかりの、基幹産業が破壊された国になってしまいそうだ。