ひさびさ

山宣

山宣

 山宣(やません)とは、日本が泥沼の戦争に足を突っ込む少し前、治安維持法の刑の上限が無期懲役または死刑へと改悪されることに議会で反対して暗殺された代議士、山本宣治のことです。
 この本は山宣の生涯をその親の世代から自伝小説風にまとめたものです。僕はこういう人がいたということを知りませんでした。山宣は大学の生物学の教師でしたが、底辺で苦しむ小作農や労働者に産児制限法などを教えるうちに労働運動に深く関わるようになり、代議士への道を歩みました。議会は当時、政友会を中心とする地主や財界に支えられた戦争推進政党で占められており、孤立無援の状態でした。山宣に近い立場にいる代議士もあまりに厳しい弾圧の中で、次々と方向転換あるいは沈黙の立場に追いやられる中、山宣だけは地下活動をする共産党とも連絡を取りながら、貧しい人々の声を代弁し続けました。その活動は当局の恨みを買い、暗殺されてしまうのです。
 山宣の行動は結局戦争を止めることも、貧しい人々を救うこともできませんでした。あの狂気の時代に真っ向からたった一人で反対することは無謀だと考えることもできますが、あの時代にこういう人がいたということは、日本人の希望であるし、人類の希望でさえあるかもしれません。山宣の中にあったのは常に歴史にどう評価されるか、ということだと思います。それが正しいことだと思ってもその時は行動できないようなことはあるものですが、その時はうまく立ち回って生き残ったとしても、後の世にその時の行動を検証されるということがあるかもしれません。