日本文学史序説〈下〉 (ちくま学芸文庫)

日本文学史序説〈下〉 (ちくま学芸文庫)

 長くかかりましたが、『日本文学史序説』を読了しました。あらゆる歴史は、それが文学史でも音楽史でも、ただ事実を列挙することが歴史を語ることにはなりません。著者自身「あとがき」で書いているように、中世以前の作品はほぼ網羅したが、近世以降の作品はすべてを扱うことはできないので、選択したと述べています。また、作品数の制限だけでなく、それぞれの作品のつながりを述べることが歴史の解釈になると思いますが、この『序説』はその点で「日本的なるもの」として、土着的性質・此岸的性質・全体より部分を尊重する精神を挙げ、日本霊異記から川端康成小林秀雄まで一貫して叙述して無理がありません。歴史は見る者によってどういう切り方をしてもよいと思いますが、加藤周一は実に美しく、そして大きく切ったと思います。この著書はかなり多くの外国語に訳されているらしいですが、「日本」とはどういう国か外国人が知りたければ、この本を読めばほぼ事足りると思います。
 僕としては、明治以降の知識人階級の漢学の知識が衰退していく傾向を目の当たりにして、何とも惜しいことをしてしまったものだと思いました。加藤周一はさかんに文体の美しさを述べていますが、その鍵は漢文の力に裏打ちされた時代があったのです。日本語の文体についてその審美眼も含めて、現代では必要とされていないのでしょうか。