山本周五郎

天地静大 (新潮文庫)

天地静大 (新潮文庫)

 東北の小藩出身の侍が主人公のお話です。時は幕末。攘夷を叫ぶ勤王の志士たちや、世の中に不平不満を抱く浪人たちが横行する物騒な時代で、幕府の権威はようやく地に落ちようとしています。主人公の杉原透は物理学を終生の学問として究めたいと考えていますが、侍という立場上、周囲がそれを許しません。幕府か天皇かの二択を突きつけられているのです。藩籍を除かれて自由の身になった杉原は世の中の行く末に不安を感じながら、また自分は卑怯者ではないかという懐疑にも悩まされながら生きていきます。山本周五郎の小説ではいつもそうですが、暴力の否定、女性の強さが際だっています。空理空論に流されず、自分のこころで人を愛し、生活に密着した女性。腕力では劣る女性が、命のやりとりをするような土壇場ではいつでも男性よりはるかに腹が据わっているのです。これは真理でしょうね。