ル・クレジオ

パワナ くじらの失楽園

パワナ くじらの失楽園

 パワナとは鯨のことです。これはアメリカの捕鯨のお話です。牝鯨が子どもを産みに来る湾があるという伝説を信じて捕鯨船に乗る船長や船乗りの回想が交互に挿入されながら、その当時の鯨虐殺の出来事が淡々と語られていきます。回想の中では捕鯨の歴史は終わり、うち捨てられたかつての湾は荒涼とした風景をさらしています。船長は死を目前にして、鯨の生命誕生、再生の楽園を破壊してしまったことを後悔しています。愛するものをなぜ破壊するのか。とても短い短編小説です。
 それにしてもアメリカの捕鯨の歴史は強烈です。それを今になって保護を理由に禁止するのは身勝手な話だなと思わされます。乱獲によって数が減ったのは自分たちの歴史であり、それを反省して保護するというのは理解できるとして、「人道的」立場から捕鯨を非難するのは偽善的だ。そこには核兵器を保持しながら、同じように核兵器を持とうとする国を非難したり、後進国が環境を汚染することをまるで人でなしのように非難するのを同じ身勝手さが感じられます。もちろん、ル・クレジオの小説にはそんなものは全然出て来ません。