国文法ちかみち 改訂版

国文法ちかみち 改訂版

日本文学史 (講談社学術文庫)

日本文学史 (講談社学術文庫)

 小西甚一著の『日本文学史』を読了。文学史というと、オモシロクナイというのが僕の中の常識だったのですが、それが偏見でしかないことを教えてくれた本でした。小さな文庫本ですが、これが非常に面白いのです。まず、何年に誰々が何々を書いた、その内容は概略すれば以下の通りである式の説明は一切出てきません。日本文学史を大きく、「雅」「俗」に分けます。雅とは、すでにある表現を最上の価値としてそこに近づこうとする態度(高雅であるとはちょっと違います)で、俗とはその逆、すなわち、今までにないものを創り出そうとする混沌・無限を指します(俗悪、俗っぽいの俗も含まれますが、それだけではありません)。そうして万葉時代から近代までを概観すると、なるほどと思う箇所が随所にあります。久々に傍線を引きながら読んだ本です。この本で江戸時代末期の辺りを読むと、現代文化と似通うところも多々あって、興味深かったです。たとえば、「かれらなかまだけの共通知識が前提とされ、表現のなかに約束ごとが生じがちであった……かような性格は、ひとつの「雅」にほかならぬ」これは黄表紙や読本と呼ばれる文芸のことを説明しているところですが、今やサブカルチャーから日本文化の表看板になっている、アニメの世界の説明のようです。いわゆるオタクと呼ばれるような人たちの間では、セリフ一つにしても、何を下敷きにして描かれているかは瞬時に理解できるし、理解できなければ、その作品を味わうに値しないのです。それは和歌における本歌取りや、近世のパロディ文学と同じなのです。小西氏は、表現者と享受層が共有した圏を「雅」と言っています。この「雅・俗」の考え方はいろいろなところに応用できそうです。ちなみにこの本の解説はドナルド・キーン氏です。この解説も面白いです。
 『国文法ちかみち』は僕がだいぶ前に古本屋で買って読んだものですが、その時は小西甚一氏を知りませんでした。この本は高校生向けに書かれたものですが、口語文法から古典文法の橋渡しを整理・理解するのに最適です。学校では口語文法と古典文法は完全に分離してしまっていますし、ちゃんと説明できる教師も少ないのか、ほとんど触れられませんが、これを一冊読んでおけば、十分です。